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第35話

「ねぇ日本での彼氏って?」 カクテルを飲み、カシューナッツを食べているとニアがそう聞いてくる。今更だけど給仕はいいのか。 まぁ、大勢がいるから大丈夫だろう。と適当に思いながらニアへの返事を考える。 「ん〜、まぁ、腐れ縁みたいなやつだったな」 「どんな人!?どうやって出会ったの?なんで好きになったの!?」 酒が程よく入ってるからか、いつもなら思い出したくもない事がいい思い出に思えてくる。だから、つい口が滑る。 「どんな人?ん〜、とりあえず優しかったな。正義感が強くて、器用だったから色々できたな」 まぁ、良い奴だよ。と言うと、ニアが微笑む。 「大好きだったのね」 「そりゃあな。女好きだったのに大好きじゃなきゃ男と付き合うことは出来ねぇよ」 元々彼女が変わるペースは早い方だったと思う。それであいつによく怒られてたし。 でも、今思えば一番長く続いたのもあいつだな。 「じゃあ、なんで.....」 「ん?」 「うんん、出会いは?」 「たしか、中学かな」 「それで!いつ付き合ったの!?」 「付き合った、って言っていいのかわかんねぇけど、高校中退後すぐに同居を始めたな」 1DKの家で暮らしてたな〜なんて思い出していると、ニアが首を傾げる。 「なんで、」 「ん?」 「なんで別れたの?」 そう言われて別れた時のことを思い出す。一緒に暮らした日々は楽しかった。喧嘩したりもしたけど仲直りもしたし、一緒に狭い風呂に入ったりもした。でも、決めては..... ニアの顔を見ると、ニアは首を傾げる。 まぁ、過去の話しだしな。 「ただの意見の食い違いによるケンカだな」 「じゃあ、なんで?功祐はこっちに来たの?」 なんで、か、それなら気分としか言えないし、父親がこっちにいたからっていうのもあるよな。 「まぁ、色々だな」 「も〜!その色々が聞いたの!」 「ん〜、1つ目は、親父がこっちにいたから。」 「へ〜、パパは何の仕事してるの?」 「なんの?なん、なんだろうな?」 「え!?知らないの!?」 「あぁ、物心ついた頃には父親はいなかったし。別に、興味もなったしな」 こっちに来るって行った時もそうか。の一言で終わって、一年一緒の家で暮らしたけど全く帰ってこねぇし、会話なんて数えれる程度しかしてない。久々に話したら俺は違う州に行くって言われてバイバイみたいな感じだったしな。 「功祐って、なんか、こう、冷めてるわね」 「そうか?」 「そうよ!恋愛の話をする時は、もっと、こう、キュンキュンドキドキ、ハラハラワクワクするようなものじゃない!?功祐ったら元彼の話をしても微笑むだけでなんかこう、ないのよ!!」 「いや、わかんねぇよ」 キュンキュンドキドキは地味に分かるかもしれないが、一般人の恋愛にハラハラワクワクを求められても。しかも、最後のなんかこう!って所に関しては検討もつかん。 「もう!功祐のいけず!」 「え?」 「もっと元彼のこと語りなさいよ〜!」 うがー!というニアに苦笑し、まぁ、いいかなんて思いながらカシューナッツを食べる。ついでに、結構酔っているであろうニアに水を差し出す。 「何聞きてーの?」 そう言うと、不貞腐れていたニアの顔にパァ!と光が指す。いや、単純か。 「答えてくれるの!?」 「いい具合に酔いが回ってるからな」 いつもなら思い出したくもない記憶なのに、何故か今日はその記憶がキラキラして見える。恋愛が好きそうなニアが、楽しそうに俺の話を聞くかもしれないし、酒の力かもしれない。 とりあえずまぁ、今日はいい日かもしれない。 「じゃあ、写真とかないの?」 「全部日本だな」 「え〜なら〜、好きになったきっかけは?」 「きっかけか.....」 ん〜、と考えるが、思いつかない。いつの間にか好きになってて、別に気持ちを伝える気もなかったし、親友って立ち位置でいいと思っていたらそういう機会が舞い込んできたってだけだ。 あぁ、そういえばあれはかっこよかった。 「きっかけは、誰かを守る後ろ姿かな」 「へ?」 首を傾げるニアに、微笑んで答える。ただ単純にあいつの恋人を守る姿に憧れに近い物を抱いた。そして、それが回り回って好きという感情になったのだ。まぁ、今考えれば不毛な感情だな。 「誰かを守る男はかっこいいって話だ」 「ふーん。でもわかるかも。誰かを守ってる時って、その人にドキドキするよね」 例え守られてるのが自分じゃなくても、なんて言って笑うニアに頷く。 「じゃ〜、次はねぇ〜」 「まだ聞くのかよ」 「まだまだ聞くわよ!女にとっての恋愛話は明日への活力みたいなものだもの!」 元気だな。なんて思ってニアを見ていると、ニアの後ろに大きな影が落ちる。 「次はねぇ〜、一緒に暮らし始めた.....」 「ジャックの連れだな」 ドルタ、と呼ばれていた大柄の男がニアの後ろに立っている。ニアの言葉を遮って話かけてきたその男は、真っ直ぐと右目だけが俺を射抜く。左目は相変わらずピクリとも動いていない。よくよく見ると、左目は黒い部分が白くなっており眉から頬にかけて火傷の痕のような物が見える。 「あぁ」 俺が頷くと、ドルタは大きな手を俺に伸ばす。いきなりの事で驚いた俺は、咄嗟に腕を前に出すと、それを掴まれる。 「え?え?」 「だめ!」 俺が戸惑っていると、ニアがドルタの太い腕を腕全体を使って止めるように抱く。 「ニア、離せ」 「嫌だ!また変な所に連れていくんでしょ!」 「違う、」 「じゃあ、どこに連れていくの!?」 「香里奈が呼んでる。」 「私も行く!」 「ダメだ」 ならヤダ!と叫ぶニア。え〜っと、どゆこと? 「前もそう言ってドルタは私のお客さんを二度と来れないようにしたでしょ!!」 「.....」 覚えてるでしょ!と言うニアに、ドルタがぷいっとそっぽを向いてしまう。あ、ドルタはニアに甘いのか、弱いのか、そこら辺だな。 「だから私も着いてく!」 「今回は違う。香里奈が待ってる」 「む〜!」 むくれるニアに、ドルタが困ったような顔をしている。 .....???もしかして、ドルタって、いや、ニアもか?あら、あらあらあらあらと、近所のおばちゃんみたいなことを思っていると、ニアが不貞腐れた顔をしてニアがドルタから腕を離す。もういいのか?俺は全然くっついてくれていて構わんぞ? 「約束よ!」 「あぁ」 いつの間にか話がまとまったのか、ニアがドルタに何かを確認している。 「よし!じゃあ、功祐。絶対安全だと思うから!もし安全じゃなかったら秒で叫んでね!私が行くから」 「うん、不安しかねぇけど分かった」 とりあえず、俺じゃドルタの敵になりえないので素直にニアに助けを求める事を決意する。 「まとまったか」 俺の腕を引き、まるでニアに近い!と言いたげなドルタ。はいはい邪魔しませんよ。 「あぁ、いいぜ」 「また今度話そうね!」 絶対ね!と約束を取り付けてくるニアに苦笑して先を急かすドルタの後ろについて行く。 スーツを着た背中は大きく広い。常にトリーツァを守っている人なら当たり前かもしれないが、よく鍛えられた体だ。 「お前は.....」 ドルタが一瞬こちらを見ると、すぐに前を向いて黙る。?? 「なんだ?」 「いや、」 「あぁ、ニアとなら何もないぜ」 「っ!誰があいつのことなんか!」 それは照れ隠しの定番ですぜ。変なおっさんみたいな言葉になりながらドルタを見ると、バツの悪そうな顔をする。 「いいんじゃないか。お似合いだと思うぜ」 「.....俺は、香里奈の物だ」 物、ねぇ。思っていたトリーツァの印象と違い、意外に思っているとドルタが嫌そうな顔をする。 「別に誰を好きになろうがその人の勝手だろ」 「.....お前がニアを気にしてないならいい」 そりゃ素直なこって。と思い肩をくすめると、ドルタはそれから一言も話さずに前を歩いていく。

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