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第37話

うっま。 控えに言って最高。ドーム型に置いてあるチョコはバリッとしていて最高だし、その中を開けると果物でお城のような物が小さいながらに表現され、その下にあるスポンジは柔らかく、スポンジと思えないほど口の中に消えていく。フルーツの上からかけられているソースが甘酸っぱいなんとも言えない味を出し、それが何故かチョコとフルーツ、そしてスポンジにマッチする。まさに最高級のケーキ。このひとつのショートケーキに、世界中が羨む技術が詰められていると言われても信じれるほどだ。 「さいっこう」 3種類のケーキの中から、協力してくれる人優先だ、と言って選ばせてくれた香里奈は神だ。さすがイムピラトリーツァ、ジャックとは格が違う。 俺が至福の時を過ごしている間、ジャックは甘いものが苦手なので手はつけてない。何故か香里奈も手をつけない。ドルタは、何故か怒られた子犬のようにしゅん、としている。 俺だけ浮いてる?知るか!甘いものの前にそんなのは言ってられない。 「よくケーキ1つでんな顔できるな」 ジャックが俺の口端を人差し指で拭う。多分なんかついてたんだろ。言えよ!勿体ないだろ!ジャックがペロリとその手についたものを舐めると、甘かったのか渋い顔をする。これまじ高級品だかんな?いつも昼には売り切れるようなケーキ屋さんだかんな?分かってる? 内心でジャックをバカにしていると、ジャックの前に置いてあるケーキをジャックが俺の目の前に押す。 .....ん? 「やる」 「っ!ほんとか!」 思った以上に声が出たが、ジャックは苦笑してもう一度やる。と呟いた。おま、神か。 さっきまで内心バカにしていたのを忘れ、ジャックを拝む。 「ドルタ。私の分も下げて」 あ、なんかドルタが喜んでる雰囲気する気がする。 「チッ、てめぇらヘッタクソな芝居しやがって」 へ?芝居? 「そう?私たち的には上手に.....」 「口調がちげぇんだよ」 「あれ?違った?」 「違うな」 「あら」 そっか〜、残ねーんと、全く残念そうに聞こえない声で香里奈が言うと、香里奈がうちポケットから紙を取り出した。なんか、書いてある? 「せっかくニアが女子同士らしい会話を書いてくれたの、無駄だったわ」 .....女子らしい会話?てか、ドルタは男だし。いや、その前にケーキの話をすれば女子らしい会話になるのか。わざわざ朝から並んでその話をするために買ってきたのか。 「お前、そのためにドルタ並ばせたのか.....」 「違うわよ。3日連続で朝から並んで、帰ってくるの昼とかふざけたことしてたからおしおきよ。 ドルタ、それ食べたら本気で殴る」 ドルタの肩が思いっきり跳ねる。てか、ドルタ甘いもの好きだったのか。そんなにいかついのに..... ブーメランになりそうなことを考えていると、ジャックがめんどくせぇとばかりに眉を寄せる。 「さてさて、本題に入ろうか」 そう香里奈が言うと、ジャックが俺の肩に腕を回す。そして、耳の横で離れるな、と静かに言ってくる。首をかしげながらも、頷くと、香里奈を見る。香里奈は気にして無さそうだ。てか、こっちを向いてない。 香里奈はドルタたか何かを受け取っている。そして、そのままそれをテーブルの上に投げる。 「写真?」 様々な場面で撮影された、様々な人物の顔写真がその写真に写っている。 「あぁ、誰か見覚えのある人物はいる?」 そう言われて眉を寄せる。 自慢じゃないが、俺は人の顔を覚えるのが大の苦手だ。周りが覚えていても、俺1人覚えてないことなんてざらにある。 う〜ん、とうなりながら写真を眺めていると、ドルタが丁寧に重なっている写真をずらしてくれる。優しいな。 そして、そのドルタがどかした写真に目が止まる。茶色に近い金髪に、白人特有の白い肌。そして何より、見覚えのある腕のタトゥー。 「それ、アイザックだ」 アイザックの写真を指さして言うと、香里奈がその一枚を取る。 「友達?」 「いや、違う」 「なら、なぜ知ってる」 「友達のトラブルに巻き込まれた時に.....」 香里奈がジッとアイザックの写真を眺める。 「詳しく」 「ただ、友達がアイザックの女を寝取って、それを知ったアイザックがブチ切れて追いかけ回されただけだ」 「他は?」 他、と言われて少し焦る。熱中症で倒れた時にアイザックに会ったことは、ジャックにすら言ってない。 「他、は?」 香里奈がアイザックの写真を俺の前に置いて指を指す。話せと言う意味だ。 「っ、熱中症で倒れた時、会いたかったぜ日本人って言われた」 「日本人.....」 「お前、黙ってたのか」 ジャックがあぁ!?といいながら俺の頭を掴む。痛い痛い!アイアンクローはやばいて! 離せ!と言いながらジャックとわーぎゃーしてると、香里奈が違う写真を広げる。 店の、外観? 「この中の店で、1回でも入ったことのある店は?」 「1回でも?なら、全部だ」 3枚並べられた写真は、どれも俺の見た事ある店だった。写真に映る店名を見ても一致する。 ほとんどケニーとかと行ったことある店だ。 「知ってるか知らないが、私の島でもいくつか私の傘下に入ってない店がある」 「へ?」 いきなり違う話が始まり、クエッションマークを浮かべながら聞く。 ジャックは何かわかったのか、眉を寄せる。 「大抵はわたしの親父の知り合いか、異母兄弟の店だったりするが、この3つは違う」 「おい、お前、」 ジャックが身体を乗り出してそう言うが、香里奈は笑って受け流す。 「この3つは、全て私の庇護下にない。ただないだけではなく、誰の下についてるのかすら分からない」 「え」 まて、それって 「ここの3つのうちどれか、もしくは、3つともがスピリティングフラワーに関わっているはずだ」 香里奈のその宣言に、ゴクリと唾を飲む。もしかしなくても、俺って面倒なことに絡まれてるよな? 「あ?そこまで分かってんならさっさと乗りこめ」 「残念だがこの3つは紹介制でな。どこから情報が漏れているか分からないが、何故だが新しい人を雇い入れてもバレてしまう」 困った、と言いながら香里奈がため息をつく。 「だから、聞きたい。ここは、誰の紹介で入った?てか、お友達を私に紹介してくれ」 ニコッと笑う香里奈に、拒否権が無いことがありありと伝わる。 「っ、何も、しないか?」 「ん?」 「俺がそいつを紹介しても、変なことをしないなら教える」 俺がそう言うと、香里奈は一瞬だけ驚いた顔をして直ぐに笑う。怖い、笑みだ。 「もちろん。約束しよう」 香里奈の笑みに、ゴクリと唾を飲むがゆっくりと口を開く。 3店とも、ケニーが連れて行ってくれた店だ。少し高級な酒を飲もうとなった時に、連れて行ってくれたオシャレなバーだ。 「ケニー、俺と同じ大学生の、ケニーだ」 そう言うと、少しだけ香里奈の目が開かれた気がする。が、直ぐに元の笑みに戻る。 「苗字は?」 「.....苗字、ケニー、」 あれ?なんだっけ?と首を傾げる。ケニー、ケニー、あれ?確かどっかで聞いた気が、と思い前を向くと、笑う香里奈がいる。 あ、そうだ! 「ケニー・バン・ヴィーラントだ!」 「へぇ」 香里奈の低い声が聞こえる。ん?まて、ヴィーラントって..... 「おい、香里奈」 ジャックが声をかけるが、香里奈は無視をしてドルタからスマホを受け取る。少しだけ操作をすると、直ぐに耳にスマホを当てる。 微かに聞こえる何度かのコール音のあと、ガチャっと音が聞こえ、聞こえてくるのはいつものおちゃらけた声。 「もしも〜し」 「お久しぶりです。お兄様」 .....ガチ?

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