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第4話 期待の新人

梅田くんが初めて来る日。 もしも、梅田くんともちむぎが先に来ていて、鉢合わせをしたら最悪なムードになってしまうのでは?と危惧して早めに来た。 梅田くんが「やっぱり加入したくない」なんてなったら…、僕が辞められないからね。 しばらくして時間ぎりぎりにもちむぎが来た。 心なしか、2人は仏頂面に見える。 すぐにマネージャーが「みんな集まったみたいね」と現れた。 その後ろから、高身長のイケメンが顔を覗かせる。 184cmの茂知よりも少し大きい。 多分、190cm近い気がする。 「今日からお世話になります。 梅田茶之介(さのすけ)です」 はきはきと言った後に、頭を下げた。 18歳なのにしっかりしている…、と感動した。 もちむぎと最初に会ったのは彼らが16歳の時だったけど、今くらいしっかりしたのは20歳を超えてからだった気がする。 期待の新人だ。 俺だけが彼の自己紹介に拍手をしているし… 「僕はリーダーの畠山です。 最年長のおじさんだけど、気軽に何でも言ってください。 よろしくお願いします」 と僕が右手を差し出すと、彼はポカンとした後に慌てて握手を返してくれた。 そんな彼の姿が、遠い過去の誰かの姿に重なる。 あれ…、こんな手の持ち主と前に握手した様な… それが、1人の少年と重なった。 「君、もしかして5年位前、握手会に来てくれた子? よく俺の列に並んでくれた…、名前が確か、ちゃ…」 と僕が怒涛のトークをかましかけたとき、梅田くんが「違います!!」と遮った。 大きな声に僕はびっくりして跳ね上がった。 「あ、すみません! でも、俺と畠山さんは初対面だと思います…」 しゅんとした梅田くんが申し訳なさそうに言った。 あれ…、僕の勘違いか。 あまりに握手会とかで自分の列に来る人は少ないから、絶対に来た子は覚えてたつもりだったのに。 あの少年が最後に来てくれたのは5年前。 彼は当時、中学生だと言っていたから、年齢的にも近いと思ったけど…、でも、あの子は190cmもなかったし、他人の空似かな。 「僕の方こそごめんね。 握手会に来てくれた人の事、覚えておこうと思ってたんだけど…、勘違いだったみたい」 と僕が頭を掻いて言うと、梅田くんはホッとしたように笑った。 茂知「いつまで手ぇ握ってんだ」 麦「セクハラだめだよ」 と、もちむぎにヤジを飛ばされて慌てて手を離した。 「ごめんね、セクハラするつもりじゃなかったんだけど」 茶「いえ!こちらこそすみません」 ちゃんと謝れる、やっぱり良い子だ。 こんな子を見つけてくれたマネージャーと社長に感謝しなきゃ。 名前だけで選んだだろ!とか言ってすみません。 「それでは、この4人でこれからは頑張っていきましょうね。 茶之介くんはまだ研修生上がったばかりで経験とかもないから、正式な加入の発表は、茶之介くんが慣れたらになります」 と、マネージャーが説明する。 それからレッスンを色々とこなしたけど、梅田くんはセンスがあるのか、若さのためか、しっかりとこなせていた。 正式発表までそんなに時間がかからなそうだと、僕は胸を撫で下ろした。 レッスンが終わり、また麦が僕にひっついてくる。 麦「はたちゃ〜ん。そろそろライブもあるから、お家飯だよね?行っていい?」 ライブが近くなると、外食では体型やら健康やら少々心配なことが多いので、毎回僕が手料理を家で振る舞っていた。 もちむぎは食費を出すとは言ってくれるけど、6歳も下の子から巻き上げられるわけがない。 「そうだね。作ろうかなって思ってた。 あ、梅田くんはどうする?」 ご実家に住んでいたりしたら、夕食だってご家族が作ってくれるだろうし、強制的に連れて行くのも悪いだろう。 そう思って梅田くんに声をかけた。 茶「畠山さんの手料理ですか!?」 と、彼が驚いた声を出す。 「あー、うん。まああまり自信はないけど。 嫌なら全然断っていいからね」 茶「行きます!いいんですか? 俺、まだ正式にメンバーじゃないのに」 「いやいや、レッスン見て思ったけど 梅田くんならすぐにデビューできるよ。 まあ、パッとしない僕が言うのも偉そうだけど」 茶「じゃあ、行かせてください! 俺、仲良くなりたいです」 茂知「新入りのくせに遠慮とかねぇのかよ」 思ったより嬉しそうな梅田くんにホッとしてあると、茂知が冷たく吐き捨てた。 な、なんて事を!! 「言っとくけど、茂知は梅田くんと比べものにならないくらい遠慮がないよ… それに、同じグループになるんだし、遠慮なんかしなくていいからね」 最後は梅田くんに向かって言った。 茶「はい!ありがとうございます!」 と屈託のない笑顔を浮かべる梅田くんに心が洗われる。 もちむぎは手のかかる生意気な弟だけど、梅田くんは可愛い弟って感じだ。 僕からしたらみんな可愛いんだけどもね。 麦「新人くんばかり構ってさぁ、俺らのこと放置したら嫌だからね」 くっついたままの麦が不服そうに言う。 そろそろ放置しても手のかからない子になって欲しいけどね。 茂知「そいつばっか構って、自分の仕事を疎かにするとか許さねぇからな」 「麦も茂知も、グループ始まる前からそんな言い方しないの! 会社が決めたことなんだから、頑張ろう? さ、まずはうちに行こうね」 と、僕は不機嫌な2人を無視して梅田くんの手を引こうとする。 が、「手はだめ」「そいつと手ぇ繋ぐなら鞄は自分で持て」とまたしても、もちむぎに怒られ、僕は仕方なく「さ、ついてきて」と言葉だけで梅田くんを促した。 全く、年下の子にそんなに敵意を剥き出しにしなくてもいいのに。 でも、もちむぎにとって、若いキラキラの梅田くんは脅威なのかな? 僕とはレベルが違いすぎて、ライバル視する気もなかった… やっぱりアイドルはもうダメだよ、僕は。

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