5 / 59
第5話 可愛い弟が増えた気分
事務所お抱えの車に乗りこもうとするが、それでもひと悶着があった。
いつもは後部座席に3人仲良く並ぶが(俺は助手席でいいと言っても、助手席はスモークが貼れないので身バレすると、もちむぎに怒られた)、流石に乗用車で後ろに4人は乗れない。
今日来たばかりの梅田君を助手席に乗せるのは可哀想だと思い、僕が前に乗ろうとしたら、またもちむぎに怒られた。
茶「俺に気を使わなくていいですよ。
俺が一番顔が売れてないですし」
そう言ってくれた梅田君に甘えて、いつもの3人で後ろに乗り込む。
今は、デビュー前だからそうかもしれないけれど、すぐにもちむぎに並ぶだろう。
デビューまでに、事務所にデカい車を用意してもらおう。
もちむぎがたんと稼いでくれてるんだから、それくらいの我儘は通るはずだ。
僕のマンションに着くなり、茂知が長ソファに横になってゲームを始め、麦は1人がけのソファに座ってテレビで映画を見始める。
いつもの事だ。
しかし…、梅田くんが座る場所がない。
クッションを持ってきて、梅田くんに「ごめん、席が無くて…、今日はクッションに座ってもらってもいい?」と声をかける。
明日、マネージャーに良い感じの椅子を買ってきてもらおう。
茶「いえ!今から夕食作るんですよね?
俺も手伝います」
「え…?」
茶「あ、俺、自分で飯作ったことはないですけど、おかあさ…、母の手伝いはよくするので」
「そんな、梅田くんももちむぎみたいに寛いでていいのに…」
茶「いえ、俺が1番下っ端なので構わないでください。
それに、体づくりに良いご飯のレシピ覚えたいので、ぜひ教えてください」
そんな風にキラキラした目でお願いされると、断れない。
っていうか、男4人分の飯を作るのはまあまあ重労働だから、むしろ助かる!!
っていうかさ…、本来こうあるべきだよね?
一度も”手伝う”とは言わなかったもちむぎを睨む。
「梅田くん、本当に助かるよ。
じゃあ、先に協力して材料切ろうか」
茶「はい!!」
よく母親を手伝うと言っていた通り、梅田くんはかなり料理慣れしていた。
僕が初めて自炊した時とは比べ物にならないくらい上手だった。
着々と料理を仕上げて、机に並べていく。
その間ももちむぎはそれぞれの画面に集中している。
ほんと、”箸を出す”とか”お皿を並べる”くらい誰でも出来るのに…
でも、僕が飯を食べられるのはこの子達のおかげだし、文句を言える立場ではない。
不意に茂知のゲーム機のコードに足が引っ掛かり、転びかける。
まあ、運動してるし、転びはしないけど。
と、踏ん張ろうとしたところで、逞しい腕に抱き留められた。
「ほえ?」と、思わず声が漏れる。
茶「大丈夫ですか!?」
慌てた様子の梅田くんが、僕を抱きしめて支えてくれたようだ。
や、優しい…、そんで顔が良い!!!
僕がポカンとして彼を見上げ、半分見惚れていると、
茂知「いつまでそうしてんだ。
セクハラで訴えんぞ」
と、茂知の鋭い声が飛んだ。
「あ、ご、ごめんね!
梅田くん、ありがとう」
と、僕は彼から離れようとする。
茶「セクハラじゃないです。
っていうか、ゲームする暇あるなら、畠山さんを支えるくらいできますよね?」
割とプライベートでは不愛想で、しかもめちゃくちゃ人気アイドルの茂知に物怖じせずに言い返す梅田くんに驚く。
茂智「あ?」
ひぃ…、めっちゃ怒ってる!
年長者としてなんとかしなきゃ!
「2人とも、落ち着いて。
僕は全然平気だから!
梅田くんも支えてくれてありがとう」
今度こそ僕は、梅田くんの腕から離れる。
しかし、あんな風に正面から抱き着かれることないから、びっくりしちゃった。
茂知にあんな風に言い返せるのも、今までは麦しかいなかったし。
凄い新人だ…。
依然としてにらみ合う2人に、おろおろしていると、麦が「ねぇ、お腹空いたんだけど」と間延びした声で言った。
空気が読めていないが、今日ばかりは助かった!
僕はすぐに「そうだよね、飯にしよう」とそそくさと残りの料理を机に運んだ。
まだ仏頂面をしている茂知に「ほら、手を合わせて」と声をかけると渋々と手のひらを合わせた。
なんだかんだ、性根はいい子だから食前・食後の挨拶はちゃんとするもんね。
食事をとり始めたものの、いつもはじゃれ合っているもちむぎは、今日はやけに静かだった。
食事中にテレビや動画を流すのもいかがなものかと思うので、無音になってしまう。
僕はせっかくなので、梅田くんに沢山話しかけることにした。
質問をしたり、話を振ったりすると、梅田くんは人懐っこい笑みを浮かべて沢山返してくれる。
こんなにいい子なのに、茂知は何が気に食わないのだろうか…
食事をとり終え、食器を洗っていると(これも梅田くんは手伝うと言い、一緒にキッチンに立っている)と、茂知がムッとしたまま「帰る」と言った。
「そっか。麦も一緒に?」
茂知「ああ」
「気を付けてね。また明日」
もちむぎは同じマンションに住んでいる。
ここまで来ると仲がいいとしか言えないよね。
マネージャーも何を心配しているんだろう…
麦「車来たから帰る。バイバイ、はたちゃん」
最後に麦が僕に抱擁して、茂知に引きずられるようにして帰っていった。
茂知が「新人も、終わったらさっさと帰れよ」と梅田くんを睨みつけるも、「はい!お疲れ様でした!」と爽やかに挨拶していた。
梅田くんの方が上手 なような気がする。
お皿をすべて拭いて仕舞うと僕は梅田くんに「手伝ってくれてありがとう。明日も早いし、梅田くんも帰りなよ」と声を掛けた。
が…、彼は申し訳なさそうに
「俺、てっきり泊まっていくものだと思って…、家族にそう連絡しちゃたんですけど…」と言った。
「え?え、ああ、全然僕は構わないけど、梅田くんは他人んちでも休めるタイプ?
もし、気を張っちゃうようならタクシー代は僕が出すけど」
「もし…、畠山さんさえよければ、泊まっても良いですか?」
ちょっと遠慮がちにお願いされると、弟属性に弱い僕はすぐに頷いてしまう。
っていうか、何故かもちむぎは頑なに泊まってはいかないため、若者は皆帰りたがるものだと思っていた。
「全然かまわないよ!お布団とか準備するから先にお風呂入って」
と僕が許可すると「ありがとうございます!」と梅田くんが嬉しそうにする。
ああ…、素直な弟ってこんな感じなのかな?
ともだちにシェアしよう!

