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第6話 初めてのお泊り会
梅田くんが風呂に入っている間にリビングに布団を敷いた。
ちなみにこの布団は買って以来、誰も使っていない…
だって誰も泊っていかないし…
ようやく日の目を見て、心なしか布団も喜んでいるようだ。
少ししてお風呂上がりの梅田くんが髪を拭きながらやってきた。
分かってはいたけど、俺にとっては大きめのスウェットも、彼には少し小さいようだ…
っていうか、
「髪!濡れたままじゃん!
ドライヤーあったでしょ?」
と、僕は梅田くんに駆け寄る。
「あー…、俺は自然乾燥なので大丈夫です」
「だめだよ。風邪ひいちゃう。
それに、髪も傷んじゃ…」
傷んじゃいそうなのに、彼の髪はサラサラだ。
なんで?
元々のキューティクルの強さなのか、若さなのか…
「傷んではなさそうだけど、戻ろう」
と、僕は彼を脱衣所兼洗面台に押し込み、髪を乾かした。
悲しいことに立ったままでは届かないので、椅子に座らせて。
「オイルも付けたから、いつもよりサラサラなんじゃない?」
ドライヤーを切り、彼の髪を手櫛で整えながら言う。
梅田くんも自分で髪を触り、驚いた様子で「本当だ!」と言った。
「でしょ?いつもヘアメイクしてくれるメイクさんに訊いて、買ったんだよ。
シャンプーもメーカー合わせてるから、匂いの相性もいいんだ」
そう言って僕は梅田くんの頭を嗅いで頷く。
「ね?」と、鏡越しに彼を見ると、彼は驚いた顔で僕を凝視していた。
そこで自分がヤバいことをしていることに気付いた。
人の頭を嗅ぐとか…、セクハラじゃん!!?
「ご、ごめん!うっかりしてた!」
と慌てて彼から離れる。
梅田くんは少し笑った後に、「自分じゃ嗅げないんで、俺も畠山さんの嗅いでもいいですか?」と言った。
「だ、だめ。それはダメです」
「えー…、畠山さんばかりずるくないですか?」
と、梅田くんは不服そうだが、頷くわけは行かない。
そして梅田くんをリビングに案内すると、「え、別部屋ですか?」とさらに不服そうに言った。
「え、うん。だって僕がいびきとか掻いちゃったら、梅田くんが休めないでしょう?」
と僕が言うと
「俺も…、かくかもしれませんけど、畠山さんさえよければ、一緒の部屋が良いです。仲良くなりたいです」
遠慮がちにそう言われると、僕は頷くしかない。
断れないだろ、こんなの…
「分かった。でも、うるさかったり眠れなかったら、ちゃんと僕を叩き起こしていいからね」
と僕は確認した。
「はい!じゃあ、畠山さんがお風呂入っているうちに、布団移動させますね」
と梅田くんが嬉しそうに言うので、僕はお風呂に入ることにした。
なんだかんだ、色々あって今日も疲れたし、早めに寝なきゃ。
風呂から出て、寝室に向かうと無事に移動を済ませた梅田くんが携帯を見ていた。
「振りの動画?」と、僕が声をかけると、そこで僕の存在に気付いたようで、びっくりして肩を跳ねさせた。
「ごめん、いきなり声かけて」
「いえ!俺の方こそすいません。
周りが見えなくなる癖があって…」
と、梅田くんは頭を掻いた。
「いいことだよ。ちゃんと勉強してて偉い」
と僕が褒めると、梅田くんは照れくさそうに笑った。
「まだ1日しかいないけど、僕たちと上手くやっていけそう?
いや、こんなこと訊くのは変か。
僕たちが、精一杯梅田くんが上手くやっていけるように頑張らなきゃいけないよね」
「強いて言うなら、もちさんとはちょっと不安ですけど、畠山さんもマネさんも優しいので、大丈夫です。
っていうか、俺はここで頑張りたいです」
そう言った彼の力強さに、僕は眩しくなって目を細めた。
きっと彼なら大丈夫だろう。
僕がいなくなった後のもちむぎとも、上手くやれる。
胸がちくりと痛んだが、知らないふりをして胸を撫でおろす。
「新メンバーが梅田くんで良かった」
「光栄です!
ところで…、俺の事、茶之介って呼んでくれないですか?」
不意に梅田くんにそう言われて、僕は「え?」と声を漏らした。
「いや、あの、俺って下の名前の方が珍しいので、そっちで呼ばれることが多いんですよ。
だから、”梅田”って言われると変な感じがして」
と彼は頭を掻いた。
「ああ、それもそうかもね。
じゃあ、茶之介くんって呼ぶね」
と僕が言うと茶之介くんは嬉しそうにうなずいた。
「あの…、折り入ってもう1つお願いがありまして」と、さらに茶之介くんが言う。
「え、何?僕でできることなら訊くよ?」と僕が言うと
「畠山さんのこと、実さんって呼んでいいですか?」
と、茶之介くんがおずおずと言った。
実!?
一瞬、自分の事って分からなかった。
「それは構わないけど…、畠山が呼びづらいなら、はたとかでも良いけど?」
「いえ、実さんがいいです」
「そ、そう?茶之介くんが呼びやすいならそれでいいけど」
「実さんと距離が近づいた感じがして嬉しいです」
と、茶之介くんが満足そうなので、少々照れくさいがこれでいいかと思う。
下の名前なんて、家族くらいしか呼ばない。
「さあ、夜も遅いし寝よう」と、僕は茶之介くんに言って、部屋の電気を消した。
部屋を真っ暗にして、どのくらい経っただろうか。
「実さん、寝ました?」と小声で茶之介くんが言った。
「起きてるよ」って言えばよかったのに、僕はなぜか寝たふりをした。
眠たかったのもある。
すると、衣擦れする音が聞こえ、ベッドが軋んだ。
え、ええ!?な、なに!?
暗いし、寝たふりで目を開けられないけれど、僕の感覚が正しければ、今、僕は茶之介くんに覆いかぶさられている!?
実は僕に恨みがあって、こ、殺したいとか!?
恐怖に震えていると、彼が「実さん」と名前を呼んで僕に抱き着いてきた。
危うく声が出そうになるのを必死にかみ殺す。
一体何が起きているんだ!?
スースーっと頭を嗅がれている。
かと思いきや、「はぁ…」と溜息を吐かれた。
え、なに?臭かったとか?
と、混乱していると、さらに抱き寄せて頭を撫でられた。
頭を撫でられたのなんて、小学生振りかも…
でも、その感覚や体温が気持ちよくて、気づいたらすとんと眠りに落ちていた。
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