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第10話 共演したアイドルのリーダー

午後のレッスンの後、今日は夕方から”餅麦畑で捕まえて”の収録日だった。 茶之介くんは本人の強い希望で、収録の様子を見学することになった。 今まで研修生だったから、バラエティーの収録なんて見たことがないので楽しみだと、茶之介くんは嬉しそうにしている。 自分たちの冠番組だし、台本も比較的好きにさせてもらっている。 それに呼ぶゲストも基本的には自分たちより日の浅い後輩のアイドルだから、気は楽なんだけれど、彼らにも熱烈なファンがいる。 自分たちらしい番組にしつつも、彼らを立てなければいけない。 放送後は毎回自分の立ち回りが気になってしまい、ついついエゴサしてしまう。 まあ、大抵が茂知か麦のビジュを褒めるポストで、あとはゲストのアイドルが出演したことを称えるポストだ。 僕や演出に関する投稿はほとんどない。 それでいいんだけれどね。 批判がないならいいけれど、少し寂しかったりもする。 収録はスケジュール通り進み、それほど躓くこともなかった。 ゲストも1度お招きした後輩アイドルグループだったから、緊張もそれほどしなかった。 僕だけの企画の子芝居を撮るため、3人には先に帰ってもらうことにする。 だから、今日の夕食は久々に1人だ。 いつも僕の子芝居は3~4回分を一気に撮ってもらう。 毎収録、居残りをしていたら、もちむぎに怒られたからだ。 本当は、長い居残りはスタッフさんの負担になるので毎回撮りたいんだけど。 収録を終え、1人で帰る支度をしていると、控室がノックされた。 プロデューサーかスタッフの人かな?と思って返事をすると、「お疲れ様です」と言いながら入ってきたのは、共演したアイドルのリーダーの子だった。 「あれ?どうしたの?忘れ物したとか?」と問いかけると、 彼は少し困ったように笑ってから「えっと…、畠山さん、一緒にご飯でもどうかなと思って待ってたんです」と言った。 珍しいお誘いだ。 明日のスケジュールを考えると、ちょっとだけお断りしたかったけれど「ダメですか?」と躊躇いがちに訊かれると「いいよ」としか答えられなかった。 「僕はお酒が飲めないけど、それでも良ければ」 「えっ…、あ、リリイベでツアーするんですもんね! 忙しいのにすみません…」 僕たちのライブが近かったことに気付いたのか、リーダーくんはしょんぼりしている。 「ううん。後輩からのお誘いってされたことないから、嬉しいよ。 僕の事は気にせず、好きに飲んでいいから。 お店は僕が決めちゃっていい?食べたいものある?」 と、僕が声をかけると、彼は途端に元気になって 「自分は何でも好きです!」と言った。 タクシーに乗り、いつももちむぎと行くお店の中の1軒にタクシーで向かう。 僕一人なら電車でもよさそうだが、彼のグループは今や人気で、その中のリーダーとなればさすがに目立つ。 彼は、今年で24才だったと思う。 もちむぎよりは年上だけれども、僕よりは断然年下だ。 着いた個室のある居酒屋で、テキトーに注文を済ませる。 運ばれた来たウーロン茶とレモンサワーで乾杯をした。 彼は僕のグラスを見て、「次は畠山さんが飲めそうな日に誘いますね」と眉を下げる。 「全然気にしないで。 そもそも、僕はあまりお酒が強くないから、予定がある日の前日は飲まないだけだよ」 「え!?そうなんですか! それなら尚更みたいです」 「ええ?別に暴れまわったりしないから面白くないよ。 ちょっと眠くなるだけだよ」 「眠くなっちゃうんすか!?見たいなぁ」 何故か僕の酔った姿を見たがるリーダーくんを不思議に思いながらも仕事の話を振った。 すると、なんと、彼らのグループも番組を持つことになったらしく、その相談をされた。 自分が目指す姿を考えた時に、やっぱり”餅麦畑でつかまえて”が1番近いと思って相談してくれたんだとか。 勿論、そう思ってもらえるのはとても嬉しい。 けれど… 「僕たちは3人組だけど、君たちは7人もいるんだから、 やれることも全然違うと思うよ。 だから、メンバーで沢山相談して、君たちだけの番組にした方が、ファンの皆も喜ぶと思う」 と、僕は本音を言った。 「畠山さんっ…!」 と、彼は感激した様子で僕に抱き着く。 憎めない、可愛い後輩だ… 良い後輩に恵まれたな、としみじみしていたんだけれど… まさか、彼もそこそこお酒に弱いとは思わなかった。 2時間経って、「そろそろ…」とお店を出るころには、リーダーくんはまともに立てていなかった。 「タクシー呼ぶから帰ろう」と言っても「畠山しゃん」しか言わないし、挙句「泊めて」と言われた。 うーん…、このまま外(お店の前)にいても仕方がないし、布団はあるから自宅で預かるかぁ…、と思っていたところで着信があった。 表示名を見て、首を傾げる。 麦からだ。 もちむぎからの着信はかなり珍しい。 何かあったのかと不安になりながら電話に出る。 「あ、はたちゃん? なんか嫌な予感がしたから掛けたんだけど…、今、外?」 嫌な予感ってなんだ?と思いつつも、嘘を吐く理由もないので 「うん、外だけど」と答えた。 「一人?」 「いや…」と答えかけたところで「畠山しゃんにお家行きましょ!」と僕に抱き着いたままのリーダーくんが言った。 「…、誰?」と麦が冷たい声を出す。 いつも穏やかな麦の低い声に驚きつつ、「今日、TRUSH☆(共演したアイドル)のリーダーくん」と答える。 「それ、家に泊めるの?」 「え、う、うん。結構泥酔しててさ、心配だし」 と、僕が言うと麦は大きなため息を吐いた。 「はたちゃんは危機感が無さすぎる、 そいつのマネージャー向かわせるから、そこで待ってて。 〇〇町の居酒屋?」 「あ、え、うん。 でも、この時間にマネージャー呼ぶとか、迷惑にならないかな?」 「はぁ…、自分のとこの商品(アイドル)が、他所様に迷惑かける方がダメでしょ。 ちゃんと待っててね、僕も行くから」 そう言って電話が切れた。 え、麦も来るの?なんで? 明日は朝から、別の番組のロケもあるのに…

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