12 / 59

第12話 バスでうとうと

翌朝、寝不足の体を引きずってロケに向かう。 僕の顔を見た麦は意味深に笑い、茂知は「はた、死ぬほど顔色悪いぞ?」と心配してくれた。 健康が取り柄で、滅多に体調が悪い状態で仕事に向かうことがなかったから、メイクさんも驚いて一生懸命クマを隠してくれた。 茶之介くんは流石にお留守番だ。 1人でダンスの練習をしているらしい。 今回は地方ロケで、その地のものを食べ歩いたり、地元の人と交流したりするほのぼの番組なので、流石に連れて行けないらしい。 ちなみにライブの番宣も込みだ。 今回宣伝するライブは茶之介くんが初めて出演するライブになるだろう。 しっかり宣伝しなきゃ。 とはいえ、もちむぎの魅せ方は6年も一緒にグループを組んでいる僕は熟知している。 困っているお年寄りがいれば、茂知を前に出して、優しい王子様のような姿を演出するし、 お土産屋さんにあざといカチューシャがあれば、麦に試着させる。 これで取れ高はバッチリだろう。  昨日のこと、なんか言った方がいいかなとは思ったけれど、麦が何も言わないので僕も突っ込まないことにした。 やぶ蛇かもしれないし。 次の場所へ向かうまでに少し休憩することになったので、僕はトイレに向かった。 「麦となんかあったのか?」 後ろから着いてきていた茂知にきかれて、僕はぎくりとした。 茂知って、そういう勘がよく働くんだよなぁ。 「ううん。何もないよ」 「…、何年やってると思ってたんだよ。 なんかあっただろ」 「いや…、まあ…、方向性の話で昨日話しただけというか…」 「はぁ?方向性?」 茂知が訝しげな顔をしている。 そりゃそうだ。 僕と麦が、茂知抜きでそんな話をしたことはない。 「まあ、僕が折れることで落ち着いたから大丈夫だよ。ちょっとお互い引きずってるのかもしれないけど」 僕が曖昧な言葉で誤魔化すと、茂知は諦めたのか「そうかよ」と言って踵を返した。 あれ…、茂知はトイレ行きたいわけじゃないのか。 僕と麦の様子を心配して、わざわざ言いにきてくれたのかと感心した。 なんだかんだ茂知は良いやつなんだよなぁ、なんてしみじみ思いながら用を足して、ロケバスに戻った。 そこからは無事にロケが終わり、帰路に着く。 家に着くのは21時頃になりそうだ。 こういうロケは気楽だけど、移動距離が長すぎるのが難点だ。 21時帰宅だと何にもできないな… バスに乗る時も案の定、茂知の隣か麦の隣かで揉めかけたけど、昨日のこともあって茂知の隣に座った。 いつもは悩むのにすんなり隣に座った僕に、茂知はちょっと面食らっていた。 何とかロケが終わったと言う安心感と、寝不足のせいで、僕は気づいたら眠ってしまっていた。 「おい、はた。流石に肩がいてぇんだけど」 と、頭を揺らされる。 ああ、茂知の肩に頭を乗せて寝てしまったのか…、とうっすら意識が浮上する。 確かに肩を貸すのって結構肩が痛くなるんだよな。 でも、僕は睡魔に抗えなかった。 ずりずりと体を滑らせて、茂知の太ももの上に倒れ込む。 「もちぃ、ごめん、眠いから借りるね」 上手く口が回っていたかは不明だけれど、茂知に叩き起こされないからまあいいだろうと、僕はまた瞼を閉じる。 車の揺れって眠りを誘うんだよね。 ゆさゆさと揺すられて、僕は目を覚ました。 頭がスッキリしていて、外が暗いからだいぶ寝たようだ。 「流石に起きろ。家着いた」 茂知のぶっきらぼうな声に、僕は体を起こした。 「嘘!?ごめん! ありがとう、茂知」 と、彼に謝って立ちあがろうとする。 が、少しふらついて、茂知の上に逆戻りしてしまった。 「おい、大丈夫か? 部屋の前まで送るか?」 と、茂知に顔を覗き込まれる。 普段は仏頂面なのに、心配そうに眉を下げる茂知。 やばーい、顔がいい。 ぼんやりと顔を眺めていると、空のペットボトルが飛んできた。 「公式の場でいちゃつかないでくださーい。 もちも早くはたちゃんを帰して」 麦が投げたようだ。 ペットボトルはポコンと軽い音を立てて、茂知の肩に当たった。 「はいはい。うるせぇな。 じゃあな、はた。明日はマシな顔色で来いよ」 と、茂知は僕を立たせた。 「ごめん。ありがとう。 2人とも、また明日ね」 僕は2人に手を振って部屋に帰った。 今日こそはちゃんと早く寝よう。 こんなふうに誰かに迷惑をかけてしまうから。 それにしても…、もともともちむぎは顔が良かったけれど、大人になってさらに精巧になったなぁ。 どんどんビジュが良くなっている。 そこに、茶之介くんが入ったら、僕たちのグループはどうなっちゃうんだろう。 尚更僕がノイズになってしまう。 早く卒業しなきゃ。 そう思いつつ、僕は家事をこなした。

ともだちにシェアしよう!