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第13話 加入の告知
夜、寝ようか思っていると携帯が震えた。
何事かと思ったけれど、茶之介くんからラインがきていた。
『実さん、ロケお疲れ様です。
今日、ダンスレッスンしてたんですけど、課題だったターンができるようになりました!』
そして添付されていた動画を再生する。
そこには汗だくの茶之介くんが、前のレッスンでもちむぎとずれていると指摘された部分を完璧にこなしていた。
ちゃんと課題をこなすために練習して、ものにしているのがすごい。
『すごいじゃん!!
だいぶハードに練習しているみたいだから、今夜はちゃんと休んでね。
明日、生で見られるの楽しみにしてる!』
『はい!ありがとうございます!!
おやすみなさい』
そして犬が眠るスタンプが送られてきた。
犬ってところが茶之介くんらしいな。
もちむぎがマイペースな猫なら、素直で元気な茶之介くんは犬だ。
『おやすみ』とだけ返して、僕は布団に潜り込んだ。
それから、練習の日々が続いて、ようやくライブを迎えた。
今回は3人で出演するが、1番最後に茶之介くんの加入を発表する。
そして、次のライブからは4人で出演することになる。
名前も、餅麦茶畑になる。
今日からお披露目ってわけじゃないけれど、ファンのみんなの反応を考えると緊張する。
1番緊張するのは茶之介くんだろうけれど。
つつがなく、今回のアルバムの曲を中心にライブを進めていく。
相変わらず、客席のペンライトはもちむぎカラーばかりだ。
それでも、自分のカラーのペンラを持っている子を見つけるたびに手を振った。
こんな僕のファンサでも、嬉しそうにしてくれるから、僕も本当に嬉しい。
いよいよ、最後の曲が終わり、僕たちはステージの真ん中に集まる。
茂知「ここで、今日はなんと、皆さんにご報告があります」
普段はない展開に、客席はざわついている。
麦「後ほど公式のSNSでもお知らせしますが、餅麦畑に新メンバーが加入します!」
麦の言葉に、さらに客席はざわめく。
なんで?誰?といった声。
少し静かになったところで、僕は口を開いた。
「うちの事務所の研修生だった、梅田茶之介くんです!!」
僕のセリフと共に、僕たちの後ろにある巨大なスクリーンに茶之介くんが映し出される。
「キャー」という黄色い悲鳴が聞こえる。
そうだよね、めっちゃイケメンだよね。
僕は、ファンの子たちの反応に、思わずにっこりして頷いてしまう。
ライブ会場の反応は、割と好感触で良かった。
あとはSNSの方だな…
アンコールの曲も終え、僕たちは控え室に戻り、打ち上げの準備をする。
バタバタしていて、SNSの反応のチェックは後回しになってしまった。
茶之介くんはライブには出なかったけれど、舞台袖で見学していたので、打ち上げには参加した。
茶「いよいよって感じで実感湧いてきて、緊張してきちゃいました」
と、隣に座っている僕に話しかけてきた。
「まあ、普通に緊張するよね。
でも、メンバー加入に関しては、ファンのみんなもいい反応をしてたから、どんと構えていなよ」
茶「はい!!」
茶之介くんはにこにこして「これ美味しいですよ」とか言いながら、料理をとってくれる。
ありがたいけど、まあまあ歳だからそんなに食べられないよ…
一次会を終えただけで、大人たちはベロベロに酔っ払っていた。
みんな発表のこともあって、いつも以上に緊張していたんだろうな。
20歳未満の茶之介くんだけがまっすぐ歩けている。
こんな大人にはなってほしくないところだ。
毎回一次会で帰るもちむぎがタクシーに乗り込む。
茂知が去り際に「お前もちゃぁんと家に帰れよ?」と茶之介くんに圧をかけていた。
「ええ、もちろんです」と茶之介くんは笑顔で答えた。
それに茂知は舌打ちをしてタクシーに乗り込んで行った。
お酒も飲めない茶之介くんが、夜遊びするようには見えないから、一体茂知は何を心配しているんだろう…
「実さんも帰るんですか?」
と、茶之介くんに聞かれる。
「うん。お酒も強くないし、割と酔ってるから帰るよ。茶之介くんもでしょ?」
「はい!じゃあ、タクシー呼びますね」
「ああ、ありがとう」
そう言ってから、ふと、茶之介くんの家と僕の家って近いっけ?と疑問に思った。
けれど、アルコールを摂った僕の思考はふわふわして「まあいっか」と考えることを諦めた。
「実さん、フラフラしないでください」
と、茶之介くんに腕を掴まれて、僕は彼を支えにして立ち、タクシーを待った。
ライブ疲れもあって、さっさとお風呂に入って眠ってしまいたかった。
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