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第14話 打ち上げの後
自宅に着くと、なぜか茶之介くんも降りてくる。
「あれ?茶之介くんも降りるの?」
と、僕が首を捻ると茶之介くんは気まずそうに「茂知さんには帰れって言われたんですけど…」
と話を切り出す。
自分の加入について、SNSを見るのが怖いらしい。
まあ、それもそうだよな。
否定的な意見はほぼないとは思うけれど、それでも、人は十人十色だからきつい言葉を書いている人もいるだろう。
ちょうどライブの終わりと共に、茶之介くんが加入するという告知が、SNSやHPで出たはずだ。
「確かに怖いよな、ファンの反応って。
応援してくれてたから尚更、裏切りたくないけど、意に反してそうなることもあるし。
一緒にエゴサする?僕も気になるし」
と、僕が言うと茶之介くんが僕の手をぎゅっと握った。
「ぜ、ぜひそうしてください」
そういえば彼は、まだ20歳にもなっていない、こないだまで高校生だった少年なんだ。
僕なんかが、力になれるなら本望だ。
掴まれた手を引きながら、僕は自宅に入る。
茶之介くんをソファに座らせても、手には力が入ったままだった。
「あの…、お茶でも淹れてくるから、手を離して欲しいんだけど」
「あ、あっ…、すみません!」
パッと解放された手。
力が入っていたせいで、少し白くなっている。
危うくあざになるところだった。
お茶を持って部屋に戻ると、茶之介くんは携帯を机に置いて、深刻な顔で暗い画面を見つめていた。
「はは、そんなに怖がらなくても、割と肯定的な意見が多いと思うよ?
代わりにもちむぎが脱退するとかじゃないし」
僕は笑って隣に座ると、さっとSNSを開く。
トレンドに「新メンバー加入」が入っている。
これだけ世間に反響を与えられるアイドルになったんだなぁとしみじみする。
「ほら、トレンド入ってる」
「わぁ…、改めて、とんでもないグループに入っちゃいました」
元気付けようとしたが、逆にプレッシャーを与えたみたいだった。
そのトレンドをタップすると、
「新メンバー、超良くない?」
「研修生も追ってたから、梅田くんが餅麦畑に入るの嬉しすぎ」
など、かなり好感触なポストが多い。
「ほら、大丈夫だよ!
みんな喜んでる」
僕が差し出した画面を、彼は恐る恐る眺めて、ホッと肩の力を抜く。
散々励ました手前、肯定的な意見がなかったらどうしようかと思ってしまったけれど、大丈夫そうだ。
でも、「加入の代わりに誰か抜けないよね?」とか「私たちが好きな餅麦畑じゃなくなったらどうしよう」と言った意見もあった。
それでも、茶之介くんに対する批判というわけではないので大丈夫だろう。
「でも、ここからですよね」
「え?」
意を決したように呟いた彼に、思わず聞き返した。
「いえ、俺の加入が受け入れられるかどうかは、俺の頑張り次第ですよね」
「うん、そうだね」
「俺、頑張ります。
俺を加入させて良かったってみんなにも思ってもらえるように、歌もダンスも」
「ふふ、頑張れ」
若々しい考え方に、僕は思わずほのぼのとしてしまった。
こんな感じなら、ファンのみんなも茶之介くんを応援したくなるはずだ。
「君ならきっと、もちむぎに負けないくらい輝けるよ」
そう言って、頭をかき混ぜる。
「実さんにも?」
僕の手を鬱陶しがるでもなく、されるがままの彼が真剣に問う。
僕?
「うん?」
「俺、実さんにも負けないくらい輝けますか?」
「え?僕?
いや、もう僕よりは輝いてるよ」
「そんなことないです…、俺、実さんがっ」
と言いかけたところで、僕の携帯が鳴った。
茂知からだ…
「出てください」と、彼に言われたので、僕は通話ボタンを押した。
「はた、ちゃんと家に帰ったか?」
と、少し不機嫌そうな声で茂知が言った。
「うん。ちゃんと家に着いたよ。
茂知と麦は?家?」
「俺らが帰れなかったことないだろ。
珍しくはたが酒飲んでたから心配してんだよ」
「茶之介くんの加入が受け入れられているのが嬉しくて飲んじゃった。
けど、もうそうそうないから大丈夫だよ。
茂知も疲れてるでしょ?おやすみ」
そう言って電話を切る。
みんな心配性で困る。
「茂知さんって、実さんのことよく気にかけてますよね」
横で聞いていた茶之介くんが言う。
「うん。僕の方が断然年上なのにね」
「まあ、気持ちはわかりますけどね」
「え!?そう?
僕、結構しっかりしてると思うんだけど」
「まあ、仕事上ではそうですけど。
隙が多いんですよね」
例えば…、と言って、彼が覆い被さる。
「こんなふうに簡単に家に上げて、挙げ句の果てに押し倒されるところとか」
「…え?」
体の自由を奪われて、じっと見下ろされる。
「ふふっ、茶之介くん、こう言うシチュエーションがある恋愛ドラマとか向いてそうだよね」
と、僕が笑うと茶之介くんはしばらくしてからため息をついて離れた。
「茂知さんが言ってたのはこういうことか…」
と、なにやら肩を落としている。
やれやれのジェスチャーみたいだ。
「それ!こないだの、茂知と何の話してたの?」
「…、秘密です」
やはり、茂知も茶之介くんも口が硬い。
何度聞いても教えてはくれないようだ。
「むぅー…、さ、エゴサもしたし、お風呂入って寝よう」
と僕は提案して、彼を風呂場に押し込んだ。
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