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第16話 意外なオファー
翌朝、やたらすっきりとした感じで目が覚めた。
あれ…、ライブの後だったから、気が抜けて熟睡できたのかな…?
そして目の前には広い背中…
僕、茶之介くんの背中に縋りつくようにして寝てる!?
え、待って…、待ってくれ。
昨日は確か、茶之介くんがベッドで寝ていたから、僕は床に敷いた布団で寝たはず!
一体どういうことだ…?
とりあえず、茶之介くんのお腹に回した腕をそっと解く。
すると、彼が「起きたんですか?」とこちらに振り返った。
「ひっ!?あ、起きてたの!?」
驚きすぎて変な声が出た。
「あ、驚かせてすみません」
そう言った彼の目の下にはうっすらクマがあった。
僕のせいで熟睡できなかったんじゃ…
「ごめん、休めなかったよね!?
ゆっくり休めるようにって、床で寝たつもりだったんだけど…」
「いえ!俺が、申し訳なくなって、ベッドに運んだんです!
で、俺が床に行こうとしたんですけど寒かったせいか、実さんにその…、抱き着かれてしまって、ご褒美…っじゃなくて、悪いなと思って一緒に寝ちゃいました!
(半分は当たっているので間違いではない!)」
「えっ…、つまりはやっぱり僕のせいじゃん…
ごめんね」
僕が申し訳なくなって謝ると、「いえ!俺は楽しませていただいたんで!」と茶之介くんが首を振る。
「楽しむ…?」
「…、こっちの話です」
そんな不毛な話をしていると、茶之介くんのお腹が鳴った。
流石、食べ盛り。
僕は昨夜の飲酒と暴食のせいで、まだまだお腹が空かない。
「なにか作るよ。茶之介くんは自由にしてて」
僕がそう言って立ち上がると、茶之介くんは「さすがにそれは悪いので手伝います」と言ってくれた。
でも、朝飯って大したもの作らないし…
「じゃあ、昨日洗濯乾燥かけた服、畳んでもらっていい?
茶之介くんのも入ってるから」
「えっ…、すみません、また洗ってもらって…
畳んできます!」
元気に寝室を飛び出した茶之介くんを微笑ましく思いながら、冷蔵庫にあるもので軽食を準備した。
毎回、何から何まですみません、と謝りながら茶之介くんは帰っていった。
さて…、できていなかった家事をやるかぁと、なんだかんだで体を休める暇もなく1日を家事に費やした。
アイドル業をしつつの家事って結構手が回らないんだよなぁ…
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翌日から、本格的に4人でのライブに向けた準備が始まった。
加入に合わせて、新曲も入れるらしい。
茶之介くんがメインの楽曲になるので、茶之介くんは毎日大変そう。
それでも、若さとやる気で楽しそうにこなしてはいる。
茂知との仲は、前ほど険悪ではないけれど、演出や一緒に過ごすにあたり、よくぶつかり合うのは彼らだ。
どちらも本気だからこその衝突が多くて、なかなか上手く落としどころがつかないことも多い。
麦はどこ吹く風だし、結局は僕が間に入って折り合いをつける。
マネージャーが言う通り、そう簡単には辞められない雰囲気だ…
それでも、着々とライブの準備は進んでいく。
あと数日といったところで、僕だけがマネージャーに呼ばれた。
脱退の件だろうか?と、少し期待しつつも寂しさを感じながら、別室に入る。
「はたちゃん、忙しいところ、申し訳ないんだけどね、
矢島監督から推薦が来ていて…」
と、A4の紙を渡された。
矢島監督と言えば、僕に声をかけてくれた映画監督だ。
僕の事、覚えててくれたんだ…
と、嬉しい気持ちでその紙を読む。
『瑠璃茉莉が咲いた日』という映画の主演を決めるオーディションの案内だった。
「これ…、受けて良いんですか?」
受けると決めたわけではないのに、緊張と期待で口が乾いた。
手が震え、受け取った紙が揺れる。
「良いも何も、はたちゃんへの直々のご案内だから、私や事務所に決定権はないよ。受ける?
推薦とはいえ、ちゃんとオーディションは受けなきゃいけないけど」
僕はジッとマネージャーを見つめ返す。
勿論、考える間もなく受けたいと言いたい。
でも、動き出した餅麦”茶”畑のこと、今の自分に俳優業をできるか…、いや、それ以前にオーデションを受ける余裕があるか…、と逡巡してしまう。
でも、またとないチャンスだ。
「やりたいです…、受けさせてください」
息をつめてマネージャーとしばし見つめ合う。
数秒してマネージャーがふぅっと息を吐きだした。
「まあ、はたちゃんならそう言うよねぇ…。
ちょっと他のメンバーが心配だけど、受けるなら全力で受けよう」
「はい」
「まあ、メンバーにはオーデションが通った後の報告でいいでしょう。
受かるかも分からない」
厳しい言葉だが、本当にそうだ。
「それに、この作品は原作が小説なのよ。
だから、監督推薦枠のほかに、原作者の推薦枠もある。
厳しい戦いになるけれど、勝つ気で挑もう」
「はい」
僕を推してくれた矢島監督の為にも、期待を裏切らないパフォーマンスを見せなくては。
ライブと並行して、僕は演技の勉強も進めることにした。
オーディションはライブの翌週だ…
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