18 / 59
第18話 茶畑
練習が終わり、僕は肩の力を抜いた。
なんとか乗り切れた。
夕食を食べてみんなと解散したあと、ようやくテーピングを外せた。
腫れたままのそこに湿布を貼る。
なんとか明日には少しでも良くなっていますように…
けれど、そんな僕の思いは虚しく、日々、テーピングで誤魔化すことになった。
そして迎えたライブ当日。
昨日よりもさらに硬く、テーピングで固定して本番に臨んだ。
衣装が裾の長いボトムスで良かった。
2曲披露した後、茶之介くんのソロ曲になる。
裏で茶之介くんを見ていると茂知が話しかけてきた。
「はた…、お前…」
「どうかした?」
「こっちのセリフだ。お前、足どうかしたのか?」
「え、あ、なにもないよ!」
ギクリのして挙動不審に返した。
ここで気づかれるのはまずい。
「…、バレてねぇと思ってんのか。
まあ、2〜3日前から変だと思ってたけど、流石に今日のは隠せてねぇよ。
ファンにもバレてんだろ」
茂知にじっと見下ろされる。
気づかれていたんだ…
「ご、ごめん。でも、僕は最後まで出たい」
「分かってる。
だから、俺も麦も今日まで何も言わなかっただろ。
お前がライブにかけてるのは、俺たちはよく知ってる」
「ありがとう…」
茂知の言葉に泣きそうになる。
「できるだけ、俺らもフォローするけど、何せ俺たちも新しい体制に四苦八苦してるからな」
「うん。テーピングもガチガチだし、レッスンでも大丈夫だったから、大丈夫だよ」
と言うと彼は視線を鋭くする。
「隠しきれてねぇって言ってんだろうが。
絶対に病院行けよ。打ち上げも来るな」
「分かってるけど、打ち上げくらい行かせてよ。
初めての茶之介くんの晴れ舞台なんたから」
と僕が言うと、茂知は舌打ちして「ほら、行くぞ」と言った。
茶之介くんのソロ曲が終わりそうだ。
僕と茂知が下手から出て、麦は曲の途中に奈落から現れる演出の4人体制の新曲だ。
難易度の高い曲だから、気合を入れないと…
それからなんとか曲やMCをこなし、最後の曲になった。
最後の曲は、花道を歩き回る動きが大きい曲だ。
なんとか、持ってくれ僕の足…
茶之介くんと客席の前を走り、ラスサビ前にステージに戻る途中、右足に電撃のような痛みが走り、転びかける。
と、茶之介くんが僕を受け止めて横抱きにした。
「えっ!?」
「しー、ほら、戻りますよ」
2時間のライブの終盤で、成人男性を抱いたまま走れる体力にびっくりだけど…、どういう状況!?
と、僕が混乱している間、客席からは黄色い悲鳴が上がりまくっていた。
ステージに戻り、茶之介くんかサッと僕を床に下ろした。
そしてまるで演出ですよって顔をして最後まで踊りきった。
楽屋に戻ってすぐに、マネージャーからメチャクチャに怒られた。
打ち上げは参加せずに、すぐに整形外科に連れて行かれ、「酷い捻挫」と診断された。
当分の間は安静に、あと数日放置して激しい運動をしていたら関節が変形して後遺症が残るところだったとか。
マネージャーが同伴していたので、そこでもさらに怒られた。
とはいえ、あとはオーディションが大きな仕事なので、足は動かさずに済みそうだ。
それはそうと…、今回のライブの感想が続々とSNSに上がっている。
『断然もちむぎ派だったけど、今回の茶畑の絡みヤバかったー!』
『畠山を軽々と抱き上げて走る茶之介くん、めっちゃメロい』
『え、畠山くん良くね?』
と言った、僕の茶之介くんへの感想が上がっている。
まさかあれのおかげで、僕にもフォーカスが当たるとは…
散々不人気で低迷していたのに、あのお姫様抱っ…、横抱きで注目してもらえたなんて、ちょっと笑えてしまった。
でも…、辞める気でいたのに今更…
ありがたいことなんだけど、ちょっと気持ちが揺らいでしまう。
勝手にカップリングをされて、茶之介くんも迷惑だろう。
僕の人気のために彼を巻き込んでは可哀想だ。
辞めると決めた気持ちをもう一度奮い立たせる。
ライブはうまく行った。
次は、オーディションだ。
診療後に大人たちはだいぶ出来上がった打ち上げに少し顔を出した。
もちむぎに怒られ、茶之介くんは「自分、気づかなくて本当にすみません」と自分を責めていた。
気づいていなかったのに咄嗟に僕を支えられる瞬発力がすごい。
「本当にご迷惑をおかけしてすみません。
茶之介くん、本当にありがとう」
その場のみんなに謝り、茶之介くんに感謝する。
「でも、なんか茶畑が来そうですよね。
今、めっちゃ盛り上がってますよ?」
と、演習陣の誰かが言った。
「それで売り出したら、今の倍のファンがつきそうでは」とも。
「あぁ…、ありがたいんですけどね…
でも、公式でそういうカップリング出しちゃうとちょっと活動の幅が狭まりませんか?」
と、僕は言ったけれど「そんなの気にしなくて良いよ」と、茶畑の話で盛り上がっている。
申し訳なく思って茶之介くんを盗み見るが、彼は満更でもなさそう…
いいのかな、それで…、と思いつつも打ち上げは解散した。
もう隠さなくて良いので、右足を引きずって歩く。
めっちゃ痛い。
「運びましょうか?」という茶之介くんの言葉を断り、僕はタクシーで帰宅した。
もうメンバーに隠し事をしなくて良いと思うと気が楽だ。
あと1週間、演技の方も磨かなくては。
ともだちにシェアしよう!

