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第25話 久々の夕食

家に帰り、色々と片付けを済ませているとインターフォンが鳴った。 出てみると、予告通り茶之介くんがいた。 「すみません、忙しいのに」 と申し訳なさそうにしているので 「いいよ。最近、メンバーとの時間が少なかったから、丁度良かった。 茶之介くんの近況も聞きたかったし。 ほら、手を洗ったらソファに座って待ってて」 とフォローすると、たちまち明るい顔になった。 「ありがとうございます」 茶之介くんは言われたとおりに手を洗ってからソファに座る。 その間に僕は日本茶を淹れた。 そろそろあれが来るころだ… 日本茶をテーブルに出したところで、またインターフォンが鳴った。 「あ、来た来た。 茶之介くんも一緒に来て、手伝って」 僕に急に言われた彼は「え、はい」と戸惑いながらも一緒に玄関に来てくれた。 届いたのはお寿司。 事前に頼んでおいたのだ。 「2人前を1人で運ぶのが大変だったんだ~」 そう言って片方を彼に渡す。 「お寿司?」と困惑している。 「そう!お祝いだよ」 リビングに戻って、お茶で乾杯をする。 「茶之介くんが超人気番組に出るって聞いたから、お祝い」 「ええ!?なんかすみません」 せっかくお祝いしようとしたのに謝られてしまって苦笑した。 「もっと嬉しそうにしろー」 そう言って髪をかき混ぜると、やっと彼が笑った。 「全然、ゲストなんですけどね。 茂知さんのラジオとか、麦さんのモデルとか、実さんの映画出演とかとは比べ物にならないんですけど」 「新人が何言ってんだよ。 これからだってば。 今からソロの仕事がバンバン入ってたら過労死するよ」 それでそんなに嬉しそうじゃなかったのかとホッとした。 ゲストでも、人気の番組に出演は、かなりのチャンスだ。 茶之介くんの懐っこさと素直さを前面に出せば、もっともっとファンは増えるはず。 「ほら、飯食べよう?お腹空いたでしょ」 「はい!!」 お寿司を食べ終え、寛いでいると結構いい時間になっていた。 「茶之介くん、帰らないの? ご家族が心配しているんじゃない?」 と僕が聞くと、茶之介くんは「ええっと…」と言いにくそうな顔をする。 「どうかした?」 「今日、泊っても良いですか?」 思わぬ言葉に僕は驚く。 「構わないけど、明日早くないの?」 (くだん)の番組の打ち合わせがあると聞いている。 そういうのはたいてい午前中に入っているはずだ。 「まあ、遅くはないですけど…、あ、実さんはもしかして朝から撮影とか入ってますか?」 「ううん。今日のが滞りなく済んだから、明日はオフ。 午後はレッスンに行くけど」 と僕が言うと「やっぱり泊まっちゃだめですか?」と再度聞かれた。 「全然構わないよ」と僕は返した。 だって本当にそうだし。 そしていつも通り、茶之介くんにお風呂を貸して、僕も入浴して上がった。 僕が寝室に入ると、茶之介くんはベッドに腰掛けていた。 今日は先に寝てないな、と感心したところで 「実さん、寝っ転がってください。 俺がマッサージします」 と言われた。 「え?マッサージ?」 僕が驚いていると、茶之介くんは得意げに頷く。 「はい!最近の実さんが疲れて見えたので勉強したんです! 効果は父親で確認済みなので、上手いと思います!」 疲れて見える、というところに驚いてしまった。 周りにそう見られていたとしたら、アイドル失格では…? 僕がショックを受けていると 「あ!でも、気づいたのは俺たちだけだと思います! もしかしたら俺だけかも… ずっと実さんの事を見てきたので」 と彼は慌てて手を振った。 「ずっと…?」 「あ、え、えっと、過去の映像とかで俺が加入する前の姿も見たので!」 「そうなんだ。 そっか…、疲れているように見えてるんだね。 確かに忙しいけれど、充実してるからそんなに心配しないでね」 「すみません、変な気の回し方をしちゃって…。 でも、マッサージは受けてみませんか? 俺、めっちゃ練習したんです!」 そう言われて、キラキラした目で見つめられたら断れない。 「じゃあ…、茶之介くんさえよければお願いしようかな」 と言うや否や「任せてください!!」と茶之介くんが腕まくりをした。

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