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第27話 疲れが取れてる!?

いつもよりも温い布団… 心地いいまどろみにいながらも、起きなければならないと自分に鞭を打って目を覚ます。 「茶之介くん…」 目の前には、僕を抱きしめた茶之介くんがニコニコとした表情で見下ろしていた。 同じ布団で寝ていたこと自体には、もはや慣れてしまって驚かなかった。 「おはようございます」 爽やかに挨拶された。 「おはよう… 起きていたなら起こしてくれていいのに」 「いや…、実さんは忙しくしていると思うので、時間が許す限り寝てもらった方がいいかと思って放置してました」 「お気遣いありがとう。 でも、マッサージのおかげかすごくすっきりしてるから大丈夫。 さ、朝ごはんでも食べようか」 僕が布団から出ようとすると「えぇ…」と声を漏らしながら、茶之介くんが腕に力を込めた。 「茶之介くんが遅刻するでしょ」と僕はその手を叩く。 午前中から仕事があるのは茶之介くんのほうだ。 「うーん…」 しばらく唸った後に、ようやく腕を離した。 それからあれこれと支度をし、茶之介くんを送り出した。 僕自身はきもちゆっくり支度をする。 午後からの仕事っていうのもあるけれど、昨日のマッサージのおかげか、本当にだいぶ体が軽い。 前に茶之介くんが泊まった時もやたらすっきりしていた。 あのときも一緒にベッドで寝たような… 茶之介くんと寝ると…、疲れが取れるってことだろうか? まさかそんなことあるのか…? そんなことを考えつつも、今一番考えるべきは撮影の事だと僕は気を取り直して、家を出るまでの時間は台本を読んだ。 現場に着くと既に蜂谷さんは衣装を合わせているところだった。 いつ来ても、蜂谷さんが先に入っている。 他のドラマや番組の収録もあるだろうに、すごいなと感心する。 僕の支度も整い、他のキャストの支度をしている時に蜂谷さんが「おはよう」と声をかけてくれた。 「あ、おはようございます」 「あれ?なんかはたちゃんの顔色良いね?」 と蜂谷さんに訊かれて驚く。 他人から見ても元気そうに見えるんだ… メンバーから「疲れているように見える」と言われて落ち込んでいたけれど今は元気そうに見えるならよかった。 「やっぱりそう思います?」 「うん。いいじゃん」 と蜂谷さんに言われ、僕は今朝浮かんだ疑問を口にした。 「蜂谷さんは特定の誰かと寝るとすごく疲れが取れる、みたいなことありますか?」 僕としては何の気なしに訊いたのだが、蜂谷さんは口にしていた飲み物(おそらく特製ドリンク)を噴き出した。 「ちょっ、蜂谷さん大丈夫ですか!?」 僕は慌てて彼の背中を摩る。 衣装が汚れてないといいんだけど。 少しの間、ゴホゴホとせき込んだ後に蜂谷さんに「はたちゃん、こんな日が昇ってるうちに下ネタ言うことないじゃん」と言われた。 下ネタ…? 何のことか分からずにポカンとした後、”寝る”という単語に思い至った。 「ちょっと!違いますよ!!! 普通に睡眠をとるという意味での”寝る”です!!」 僕は慌てて訂正した。 「だとしてもさ、一つの布団で寝るってことは彼女とかの話でしょ? ちょっと生々しいよ~。 それに、はたちゃんの事務所って恋愛OKなんだっけ?」 恋愛に関しては特に規制はされていないが、僕自身がアイドルのうちはするつもりもない。 この6年間駆け抜けすぎて、そういうことを考えもしなかった。 「いや、彼女とかじゃないですよ! 一緒に寝たのは後輩です! それに、蜂谷さんとも一緒に寝ましたよね」 「え、男!!!? それはまた話が変わってくるというか…」 と、やたら動揺する蜂谷さんに、僕の方もなんかどぎまぎしてくる。 「いや、だから、僕と蜂谷さんも一緒にソファで寝ましたって! 別に恋仲じゃなくてもよくあることじゃないですか」 僕はそう言ったが「よくあってたまるか!」と蜂谷さんに突っ込まれた。 そうしてわちゃわちゃしていると、蜂谷さんとよく話している女優さんが「賑やかね~」と言いながら輪に加わる。 そこで、蜂谷さんが経緯を彼女に話した。 「同性同士でなんて、良く寝ないよね?」と蜂谷さんが話の終わりに女優に訊く。 「ええ、ないわね…、窮屈だし」 女優は首を傾げて僕を見る。 「いや…、僕が聞きたかったのはそういうことじゃなくて…、特定の誰かと一緒に寝ると疲れが取れやすいってことはありますか?って話なんですけど」 「「恋人以外の特定の誰かと寝ることないだろ!!」」 と、総ツッコミを食らった。 前提から何か違ったらしい。 茶之介くんと眠ると疲れが取れる、という説は、確証を得られぬまま終わった。

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