28 / 59

第28話 クランクアップ

そして、着々と映画の撮影は進み、僕は無事、クランクアップを迎えた。 蜂谷さんを含む主役格の方々はまだ撮影が続くようだけれども。 蜂谷さんからのねぎらいの言葉を頂きながら、花束を受け取る。 本当に花束って渡されるんだなあ、としみじみしながら帰路についた。 今日も茶之介くんが家に来ることになっている。 あれからも度々、「マッサージしますよ!」とうちに来て、泊っていくことがあった。 翌日は、毎回すっきりと起きれるので、言葉では遠慮しつつも茶之介くんが「全然迷惑じゃないです!」と言うので、特に断ったりもしなかった。 今日でもう撮影もないからと、遠慮はしたんだけど「それなら、慰労会をしましょう」と言われて、断るのも変なのでうちに来てもらうことにした。 あまりに良く来るので、合い鍵も渡している。 『今日は慰労会なので、実さんは何も準備しないでくださいね』と言われていたので、そわそわしながらも大人しくソファに座って映画を見て彼を待つ。 家に来てもらうのに、何もしないってムズムズするな… インターフォンが鳴って、玄関を解錠する音がする。 しばらくして、いつものように茶之介くんが現れた。 毎回律儀にインターフォンを鳴らしてくれるのは流石としか言いようがない。 いつもと違うのは、両手にいっぱい袋を下げている。 「お疲れ様です! 無事、クランクアップしたんですね! おめでたいです!!」 袋を机に並べながら、彼が言った。 「うん。おかげさまで。 少し寂しい気持ちもあるけどね」 と、本音を漏らすと 「寂しがってる場合じゃないですよ! 次はライブがあるじゃないですか!」 と正論パンチをされた。 それもそうだ。 そろそろ次のライブの準備をしなくてはならない。 アイドル業に専念できると思うと、すこしホッとする。 早く引退して俳優になりたいと言っているのに、我ながら天邪鬼だ。 茶之介くんは買ってきた料理を机に並べている。 人気のお店から、老舗の小料理屋さんの食品まで、とにかくたくさん。 「こんなにたくさん!?」 と僕が驚いて言うと、 「実は、何を買っていいか分からなくて、マネージャーに相談したら、「そういうことなら」って、一緒に車で回って買ってくれたんです」 と、茶之介くんが肩をすくめた。 「今度は皆で労わせてねって言ってました」 「そうなんだ…、大袈裟だなぁ」 口ではそう言いつつも少し嬉しい。 「だから、俺が準備したわけじゃないんです、すみません」 と頭を下げる茶之介くんに「いや、気持ちだけで嬉しいから!」と首を振る。 俳優のお仕事が終わってしまって、ほっとはしているし、達成感もあるけれど、寂しさがデカい。 だから、こんな日に家に誰かがいるのは嬉しいんだ。 「本当は、料理も自作したかったんです。 でも、俺に料理は向いていないみたいです…」 「そう?でも、お手伝いとかは、かなり慣れてたじゃん」 「そういうことは出来るんですけど、自分で作ったものを味見したら、とても人には出せない感じでした」 蜂谷さんの料理を食べたから、その気持ちは分かる。 他人に出す料理って作るの難しいよね。 「気にしなくていいのに。 僕は、茶之介くんの気持ちが一番うれしいよ」 僕がそう言うと、茶之介くんはようやく笑ってくれた。 それから、2人でしこたまある料理を平らげた。 今は減量の事とか考えずに食べたい。 明日から、ライブ前の体型調整をするから許して… そしていつも通り、お風呂に入って寝室に行くと、茶之介くんが定位置で待っていた。 「撮影も終わったし、明日からは少しスケジュールが緩くなるから、マッサージしなくていいよ」 と遠慮したが、 「いえ!労わせてください!」 と強く推されたので、気持ちいいしいいかとベッドに寝っ転がった。 本当に疲れている時は、うつぶせのマッサージの段階で寝落ちてしまうくらいに茶之介くんの腕がいい。 まあ、朝起きたらちゃんと仰向けになっているんだけれど。 今日も、いつもの通り、背面の足元からマッサージが始まる。 「もうすっかり実さんのツボは分かりました」 と茶之介くんは慣れた手つきで解していく。 僕もされ慣れたからなのか、最近は解されていると、お腹の中から温かくなる…、というかムズムズするというか…、不思議な気分になる。 まあ、寝ちゃうんだけど。 今日も、仰向けにされて目を閉じていると、うっかり寝落ちてしまいそうになる。 最後くらい堪能したいからと、眠気に抗ってみるけれども、没落寸前だ。 「実さん、気にせず寝て良いですよ」とゆったりした声で囁かれ、僕は「うん…、ありがとう」と素直に寝落ちた。 「んっ…、んんっ…」 自分の声で意識が浮上する。 なんか違和感がある? クチュクチュと水分を含んだ音も聞こえる。 何事…? そう思って眼が覚めた瞬間、強烈な快感が背中を突き抜けて、僕は吐精していた。

ともだちにシェアしよう!