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第30話 気まずい朝

目を覚ますと、体の方はやはりすっきりしていた。 これ…、多分だけどほぼ毎回抜かれていたんだろうな。 絶望しながら起床すると、茶之介くんは同じベッドで寝ていた。 肝が据わっているな… なんだかいつも通りすぎて昨夜のアレは嘘だったのではないかと思う。 今日は午後から収録がある。 起こさなきゃいけないんだろうけれど、どんな顔していいか分からない。 僕が起こすか否か悩みながら茶之介くんの顔を見ていると、パチリと綺麗な二重瞼の目が開いた。 僕と目が合った彼は「実しゃん〜」とふにゃふにゃ笑っている。 よく笑えるな、とは思ったけれど、これは多分まだ寝ぼけている。 「茶之介くん、午後の準備するよ」 と、僕が彼の頬をつねる。 「いててて…」 としばらく痛がった後にハッとした顔をした。 「み、実さん…、昨日はその…」 と徐々にしおしおと萎んでいく。 その様子が可哀想で、ちょっと詰めようと思っていた僕の気持ちも萎れる。 「僕のために抜いてくれてたんでしょ。 まあ、ちょっと有難迷惑みはあるけど、いいよ。 お互い、このことは忘れよう。 今後はこういうことはしない。マッサージもなし。いいよね?」 と僕が諭すと「嫌です」と言われた。 嫌…??? 「俺、そういう意味で実さんに触れたいです。 俺は別に出さなくてもいいので、せめて実さんのは触らせてほしいです」 「は…?」 本気で何を言っているか分からなくて、彼の顔を凝視する。 そういう意味?触れたい? 「…、だめですか?」と可哀想な犬みたいな顔でこちらを見る。 いや、いくら僕がその顔に弱いからって、さすがにそれは首を縦に触れない。 「ちょ…、ちょっと待って。 何言ってるかわかってる?」 「分かってます!俺…、実さんのことが好きです」 あんまりにドストレートな告白に、僕の口からは「ほぇ?」と声が出て、思考が停止した。 僕を好き?茶之介くんが? しばらく考えた後に、まあ、僕も茶之介くんのことは好きだ。 後輩として。 「それはせんぱ…」 先輩としてだよね?と言おうとしたところで「性愛としてです」とピシャリと言われた。 性愛…!? 僕を…!!? わけがわからない。 今度こそ、一言も声が出ず、ただぽかんとした顔で茶之介くんを見上げた。 しばし見つめ合ったが、 「困りますよね、普通」と、茶之介くんが自嘲気味に笑う。 さすがにそんなことない、とは言えなかった。 まじで困ってる。 「でも、俺は諦めきれないって最近気づいたので、折れません。 真剣に俺とのこと、考えてみてくれませんか?」 そんなふうに、真顔で言われた。 なんかいい感じのことを言っているけど、無理に決まっているだろう!! もちろん、同性ということもある。 ただ、それ以前に同じグループの後輩(19歳)に手を出した、なんて話になれば僕は2度と芸能界にはいられないだろう。 茶之介くん自身を好きかどうかとか、そんなレベルの話じゃない。 事務所を絡めた話し合いになる。 「茶之介くん…、僕たちはアイドルなんだ。 恋愛はともかく、メンバー間で付き合うなんて絶対にダメだよ。 好きとか嫌いとかそんな話じゃない」 僕はまっすぐに彼を見て言った。 すると、案外彼はすんなりと「そうですよね」と折れた。 「実さんならそう言うって分かってました。 でも、俺の片思い歴すごいんですよ。 もう何があっても実さんのことが好きです。 だから、いつか…、どちらかがアイドルという形から卒業したらでいいんです。 それが10年後でも20年後でも、50年後だっていいです。 俺の気持ちだけは知っててほしいです」 こんな若い青年が、そんな長いスパンで僕を好きでいる…? しばし考えたけれど、彼は若い。 いずれ、僕なんかのこと忘れるだろう。 「分かった。考えておく」 僕がそう言うと、 「じゃあ、今後もマッサージさせてくださいね!」 と、茶之介くんは笑顔で答えた。 本当にわかっているのか、こいつは!! 「良いわけないだろ!」 と僕は一括し、彼のお尻を叩いて午後の仕事の準備をさせた。 まさかの後輩からの告白には驚いたけれど、とりあえず今の餅麦茶畑(ぼくたち)には恋愛をしている余裕はない。 一旦忘れて、次のライブに向けて、特に僕は遅れをとっているからバリバリ頑張らなきゃ。

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