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第33話 茶之介の姉の思惑
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(梅田 茶之介 視点)
自宅で夕食を取っていると「今日は畠山くんの家に行かないの?」と姉が訊いてきた。
この姉こそが、俺を実さん沼に引きずり込んだ張本人であり、俺の餅麦畑加入を俺以上に喜んだ大ファンだ。
「行かないよ。てか、当分行けないと思う。
実さんが忙しいから」
「なんで?一番暇そうなのに」
何も知らない姉が言う。
映画が出るという話は、まだ世間には知らされていない。
ファンの皆ですら。
だから仕方のないことではあるけれど、ちょっとムッとする。
「そりゃアイドルだし、色々あるだろ。
世間にはまだ公開していない仕事もあるんだから」
と俺が言うと「なになに!?何の仕事!?」と姉が食いつく。
いくら身内とはいえ、そういう話は出来ない。
「秘密。せいぜいFC のサイトでもチェックしておけば」
「もう!つれないなぁ。いっつも教えてくれないもんね。
まあ、ファンとしては安心っちゃ安心か」
と、姉が頷いている。
「ねぇねぇ、もちの小話とかないの?」
「あっても秘密」
「じゃあ、今度、楽屋にいるもちを撮ってきてよ」
楽屋でしかめっ面をしている茂知さんを思い出して首を振る。
「無理無理。
あの人、絶対写真とか撮らせてくれないし。
麦さんならギリ撮らせてくれそうだけど、あの人腹黒そうだし、なんか交換条件出されそうなんだよな…(そもそも、初めてツーショを撮るなら実さんが良いし)」
と俺が言うと、「ふーん。そんな感じなんだ」と姉がニヤリとする。
しまった…、内部事情を漏らしてしまった。
茂知さんはかっこいい王子キャラだし、麦さんはふんわり美人キャラだし、そういう一般の印象を壊してしまうのはよくない。
俺は反省した。
「別にオタク友達にも言わないから安心してよ。
でも、そういう話を聞くと、もちむぎもちゃんと人間なんだな~って安心するよ。
なんか完璧すぎて、たまに怖くなっちゃうし」
と姉がぼやく。
「あの2人はファンが多すぎるから、逆に親しみやすさを消しているんだと思うけどね」
「そっか…、人気者も大変だねぇ」
と姉が夕食のハンバーグをつつく。
それは本当に俺も思っていることなので頷く。
「ところでさ、メンバー間恋愛とかあったりするの?」
思わぬ姉の発言に、ご飯を噴き出す。
「げ、きったなぁ…
でも、その反応をするってことはあるのね!?」
俺がゴホゴホとせき込んでいるのも意に介さず、姉はしゃべり続ける。
「やっぱさ…、もちむぎって出来てるよね?」
何故か声を潜めた姉が言った。
「はぇ?」思わぬ言葉に、俺の思考が一旦停止した。
茂知さんと麦さんが…?いや、ないだろ。
「ないない。それに茂知さんは実さんが好きだし…あ…」
まずい…、そう思った時には時すでに遅し。
姉は目をかっぴらいて「は…?」と言っている。
一番タブーな恋愛話をしてしまった…、いや、それ以上にこの厄介オタクに良くない情報を与えてしまった!
「ま、待って…、そんなのダメよ。
もちむぎはある、あるはずよ!絶対にある!!」
と絶叫した。
我ながらド痛い姉である。
僕が宥めるより早く、姉は顔をパッとこっちに向けて
「阻止して」と言った。
「え?」
「もちはたを阻止して、絶対に」
怖いくらいに睨みながら俺に言う。
「別にカップリング云々の前に、俺は実さんが好きだから、茂知さんに譲る気はないよ」
と俺は肩をすくめる。
決して姉の為ではない。
俺は実さんが好きなだけだ。
「分かったわ。協力する。
なんでも私に訊いてね」
と姉は言い残して席を立つ。
いつの間にか、姉は夕食を間食していたらしい。
末恐ろしい女だ…
余計なことをしないでくれるといいなぁ、と思いつつ俺は夕食を摂った。
こんな風に姉に根掘り葉掘り聞かれるのが嫌で、あまり実家に帰らずに実さんのお家にお邪魔していた。
収入と仕事が安定してきたら1人で暮らそうかな…
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