34 / 59
第34話 映画公開の反響
それから一度、ライブがあった。
演出やセトリは僕たちが中心で考えるのだが、茶畑で味を占めた社長たちはもちむぎと茶畑を推し出すような演目を多めに入れるように指示した。
僕としては、正直好意があるという茶之介くんと組まされるのはやりづらい。
けれど、事務所に所属している以上、断るわけにもいかない。
僕たちは、ファンからの需要があるなら応えなきゃいけない。
しかも、今回はカップリング曲まで書き上げられている。
もちろん、もちむぎと茶畑で1曲ずつだ。
もちむぎは”戦友”って感じの格好いい曲なのに、なぜか僕たちはラブソングなんですけど…
茶之介くんとの距離感がさらに近くなったのは言うまでもない。
この方針に関して、茂知だけはマネージャーたちに食って掛かったけれど、「社長が決めたことだから」と一蹴されたらしい。
無事、ライブが終了した後から茶畑人気にさらに火がついてしまった。
大変ありがたいんだけれど、今さら僕への人気は要らないのに。
世の中、上手くいかないことだらけである。
しかも茶之介くんと一緒の人気だから僕だけが辞めるわけにはいかないだろう。
なんだか、どんどん辞められない方向へ向かっている気がする。
それから、ようやく僕が出演した映画の情報が公開となった。
公開日は1か月後。
キャストが発表され、SNSはそれなりに賑わっていた。
餅麦茶畑のファンの子たちからは「畠山くんが!?」とか「このキャストの中に入り込めるの凄い!」や「楽しみ!絶対見に行く」といった好感触な意見が多い。
「〇月ごろ、畠山くんの髪色が明るかったのって役作りかな?」というポストもあって、ファンの子たちの観察眼凄すぎるだろ、と半ば引いたりもした。
注目してもらえるのは嬉しい。
ただ、その分”目”が増えるので自分の立ち振る舞いにもっと気を付けなきゃと思う。
「疲れてるように見える」とか「眠いのかな」とか、そういうマイナスな面をファンのみんなに見られないようにしなきゃな。
そして、評価と言うものは必ずしも良い物ばかりではない。
「原作ファンだけど、あのキャラをどこぞのアイドルが演じるのは嫌だな」
「蜂谷さんとほぼW主演なら俳優の〇〇くんの方が良くない?」
「あのキャスト陣にほぼ素人みたいなのがいたら浮かない?」
分かってはいたけれど、なかなか辛口な意見もある。
「畠山って誰?」なんてコメントもある。
俳優業って言うのはなかなか厳しい世界だ。
観てくれた人が少しでも、この役が僕でよかったと思ってくれたらいいな…
番組の宣伝を兼ねたバラエティへの出演もかなりの数が来ている。
それに伴って、再び蜂谷さんと連絡する機会が増えた。
『〇日の~~っていう番組からもオファー来てたよね?
はたちゃんも出るの?』
そんなメッセージが度々届く。
どれも人気のある番組なので、事務所からの強い押しもあり、出ることになっている。
それで『出ます』と返事をすると、『また時間があったら家に来てね』とメッセージがきた。
そういえば、僕がクランクアップした後は、主演の蜂谷さんはまだ撮影が残ってて忙しそうだったし、僕は本業が忙しく(茶之介くんからのカミングアウトもあったし)、お家にお邪魔するどころか会いすらしなかった。
きっと気を使って言ってくださっているのだろうけれど、僕も建前として「ご都合が合いましたらぜひ」とだけ返した。
蜂谷さんは、本当に会うたびに誘ってくれた。
でも、僕の餅麦茶畑の仕事があったり、逆に蜂谷さんは今撮影中のドラマの収録があったりと、なかなか時間は合わなかった。
それでも、番宣の番組ではフレンドリーに絡んでくれて、視聴者からは「蜂谷くんがこんなに砕けているの見たことない」とか「距離感近すぎない!?仲良し!?」みたいな反応を頂いている。
異業種の2人が仲良くしているところが新鮮なのだろう。
蜂谷さん、俳優の友達少ないって言ってたし、ファンの皆も見ない姿を見ているのだろう。
そんなレアな彼を引き出せたのなら本望だ。
映画の公式SNSも出来て、公開までのカウントダウンをしつつも、撮影の合間にとられたオフショットも載せてくれている。
撮影地の海辺で僕たちがはしゃいでいる姿や、休憩中に談笑している姿もある。
僕が椅子で寝ているところに悪戯している蜂谷さんの姿もあり、思わず「もう!」と声が出た。
全然気づかなかったんだけど!
そんなこんなで僕と蜂谷さんが実はめちゃくちゃ仲良しなのでは?という噂が立っている。
面白くないのは茶畑のファンで…
「畠山くんは茶之介くんのものなのに!」とか「茶畑の供給増やして~」といったポストもある。
まるで僕が浮気をしているかのよう…
彼女いないのに…
とうすら悲しい気持ちになってきたのでSNSを閉じた。
ともだちにシェアしよう!

