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第35話 試写会
そして、映画公開前の試写会となった。
僕たち自身もそこで初めて出来上がった映画を見る。
自分の演技のアラが気に掛かってしまうけれど、製作陣の力のおかげで、なんとか形になっていた。
そこはホッとしたところだけれども、改めて蜂谷さんをはじめ、俳優の方々の素晴らしさを痛感した。
もしも自分が、本当に俳優としてやっていくならもっともっと努力しなくては通用しない。
そして、場面が明転し、僕達へのインタビューの時間になった。
映画の見所や、苦労したところ、演じたキャラクターへの印象と言った真面目な質問に答えていく。
演者によって答えに差異があることも僕にとってはとても興味深かった。
それから、ユーモラスな質問も何個かあった。
撮影地での思い出とか、美味しかった郷土料理とか。
司会の方が「公式SNSでは蜂谷さんと畠山さんの様子がかなり話題になっていましたが、元々仲がよろしかったのでしょうか?」と訊いた。
思わぬ質問に、僕が驚いていると、蜂谷さんが口を開く。
「実は、この作品で出会ったのが初対面なんです。
彼の親しみやすさは勿論なのですが、作品に対する熱が俺と似通ってて、気づいたら仲良しになってました。ね」
最後の「ね」は僕の方を向いて言った。
「はい。仲良くして頂いてます。
僕はそもそも映画の撮影が初めてで、休憩の取り方も分からなかったんです」
と言うと、会場で笑いが起きた。
それが静まってから再度口を開く。
「とにかく台本を読んでいようと思って机に張り付いていたら、蜂谷さんに『休憩くらいちゃんと取りな』って声をかけて頂いて、飲み物を頂きました。
それが馴れ初めですかね?」
と答えると、蜂谷さんは満面の笑みで頷く。
司会の方は「そうなんですね~。映画が繋いだ素敵なご縁ですね!ご縁と言えば~」と次の話題につなぐ。
めちゃくちゃ緊張した…
僕はこっそりと胸を撫でおろした。
それからは、舞台慣れしている俳優さんたちが上手く受け答えをして、試写会は終了した。
今回は夏の島の撮影が多く、公開日も夏真っ盛りのため、僕たちは浴衣の衣装を着ていた。
浴衣姿も、蜂谷さんとのツーショットで多く撮られ、後日、SNSに上がった。
それにしても蜂谷さんは僕とそれほど身長が変わらないのに、見事に浴衣を着こなしているなぁと感心した。
僕なんか、見慣れないせいか浴衣に着られているように見えるし。
ファンと思われる子たちは「畠山くんも浴衣似合ってていい!」といったコメントをくれているけれど。
その後の映画公開直前の番宣でも蜂谷さんと共演し、「今夜こそは家に来ない?」と誘われた。
映画が公開されてしまえば、それほど番組への出演は多くない。
予定も空いていたので「それでは、お言葉に甘えて」と、蜂谷さんの自宅にお伺いすることになった。
何か手土産を買わなくてはな、と、蜂谷さんのご自宅に行くルートの中で買い物ができる場所を考える。
「俺、自分の車で来てるんだけど、はたちゃんも乗ってく?」
と訊いてくれたが、買い物もあるし
「いったん自宅に帰るので別で行きます。
20時ごろお邪魔していいですか?」
と答えた。
それに了承を頂いたので「僕は本当に舌が肥えていないので、あまり張り切って手の込んだものを準備しないでくださいね!」と念を押した。
が、ちゃんと伝わったかは些か不安であった。
こまごまと用を済ませて蜂谷さん宅に向かう。
インターフォンを押すとすぐに迎え入れてくれた。
「あと少しでできるから、またソファで待っててくれる?」
と言いながら、せかせかとキッチンに戻ろうとする蜂谷さんに化粧箱を差し出す。
「これ、良かったら」
今回は焼酎だ。
瑠璃茉莉が咲いた日の舞台は、芋焼酎が美味しい土地だ。
現地の人がしきりに「この酒造のは美味しい」とおっしゃっていた。
主人公の父もよく、焼酎を飲んでいるという描写がある。
撮影だから勿論中身は水なんだけど。
映画が公開されて、あの時に味わっていた、あの土地が恋しくなってしまって、他県の地酒を多く取り扱う酒店で買ってきた。
同じメーカーが売っていて本当に良かった。
「お!焼酎か~。懐かしいね」
蜂谷さんも気づいたみたいで、しげしげとラベルを見つめている。
「お料理に合うといいのですが…」
「良いお酒は何にでもあうはずだよ。
じゃあ、待っててね」
そう言って、酒瓶を片手に今度こそキッチンへ引っ込んでいった。
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