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第36話 料理と焼酎
手持無沙汰になった僕は、前回のようにDVDの棚を漁る。
棚が二重構造になっていることに気付いて、背面の棚を前に出すと、そこには蜂谷さんが出演したと思われる作品たちが並んでいた。
まだ30歳なのに、こんなにたくさん出演しているのだと感心してしまう。
改めて、とんでもない人と共演し、家に上がるまでの仲になったんだなと実感する。
その中で、比較的新しい、去年の作品を取り出す。
話題になった作品で、さらには蜂谷さんは主演のものだ。
デッキに差し込み、再生する。
たった1年前なので、蜂谷さんの演技はすでに完成されている。
こういう役も演じられるなんて、勉強になるな…
蜂谷さん自身はザ・主人公って感じのキャラなのに、ダークヒーローのようなキャラクターも演じられるなんて、本当にすごい役者だ。
僕と2歳くらいしか離れていないんだよな…
僕は、少しでも自分の糧にしようと、その作品に集中した。
どれほど経ったころだろうか、蜂谷さんが「はたちゃん、できたよ」とリビングのドアを開ける。
「あ、ありがとうございます」と言って僕が立ち上がろうとすると、彼は「え”!?」と大きな声を出して、慌ててDVDを止めた。
「えっ、な、なんでこれ見てるの!?
隠してたのに!無理無理無理!!」
と狼狽えている。
「す、すみません!見ちゃいけない作品でしたか?」
僕が慌てて謝る。
勝手に棚を動かしちゃったし。
「いや、ううん、好きに観てもらって構わないよ。
でもなんか…、自分の過去作とか観られるの恥ずかしいかも」
そう言って照れながらDVDを取り出して棚に戻す蜂谷さん。
ちょっと可愛いと思ってしまった。
「照れるなんて可愛いところあるんですね」
と、思わず言ってしまうと
「はたちゃんに言われたくないんだけど!」
と怒られた。
それからダイニングに移動すると、前回と変わらず色とりどりの料理が並んでいた。
「今回もおいしそうですね」
僕がそう言うと、蜂谷さんは「さらに腕を磨いたんだ」と嬉しそうに言った。
まずはビールで乾杯して、早速料理を頂く。
見た目の通り、どれもこれも美味しかった。
「全部美味しいんですけど、特にこのチキン南蛮が美味しいです」
と僕が言うと、蜂谷さんは得意げに笑った。
「はたちゃんと同じく、俺もあのロケ地が恋しくなってさ…
現地の郷土料理を色々作ってみたんだよね。
中でもチキン南蛮が1番上手くできたから、いつかはたちゃんに食べてもらうように練習してた」
「ええ!?嬉しいですけど、僕なんかにそんな気を使わなくても…」
と僕は言ったが、「はたちゃんくらいしか家に来ないもん」と蜂谷さんが口を尖らせる。
蜂谷さんが呼べば来ない人なんかいないだろうに。
誰だって、今をときめく俳優と懇意になりたいはず。
「さて、そろそろ焼酎も開けちゃう?」
と、蜂谷さんが冷蔵庫から僕が持って来たお酒を取り出す。
「はたちゃんはあまり強くないし、水割りのほうが良いかな?」
と訊かれた。
普通の焼酎ならそうしていたかもしれない。
でもこれは、良い焼酎だ。
「いえ!1杯目はロックで飲んでみます」
と、僕が宣言すると
「…本当?無理しないでよ?」
と、蜂谷さんは難しい顔をした。
それでも、渋々ながらロックグラスに入れてくれた。
2人で乾杯をして、僕は焼酎のグラスを傾けた。
口に入った途端にカッとアルコール分が舌に焼けるような痛みを走らせた。
「ゲホッ…!?」
思わずむせる。
何だこれ!?
日本酒やワインよりよっぽどキツイ!!
蜂谷さんは、むせる僕に「ほらぁ、言わんこっちゃない」とチェイサーの水を出す。
僕はそれを急いで喉に流し込んだ。
ゲホゲホと咳込む間、落ち着くまで背中を摩ってくれた。
「え…、現地の人の喉どうなってるんですか!?」
「そりゃずっとあれで飲んでたら慣れるだろうね。
どうする?水で割る?」
負けず嫌いが発動した僕は「いえ、1杯目はこれで飲み切ります」と断った。
蜂谷さんは「ええ~?」と困惑している。
慣れたら飲めるはずだ、多分。
僕は美味しい料理を食べつつ、時々、焼酎を舐めてはむせるを繰り返して、なんとかグラスを空けることが出来た。
それからは無理をせずに水割りにしてもらったけれど。
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