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第41話 ファンミ

今朝の蜂谷さん事件でド忘れしていたけれど、近々、ファンミも控えているし、 映画が公開されて僕たちの冠番組『餅麦茶畑でつかまえて』に蜂谷さんがゲストとしてくる… とにかく大忙しだった。 本当に…、蜂谷さんと顔を合わせるのが気まずい。 茶之介くんの方は、「同じグループだから付き合えない」と言い続ければいいだけなんだけれど、蜂谷さんにはどうお断りするべきなんだろうか… 下手に誰かに相談してしまったら、蜂谷さんの名声を落としかねない。 蜂谷さんのファンだって、押しが好きな人が地味な男のアイドルだなんて知れたらがっかりすると思うし。 なんとか彼を傷つけずに断らなきゃいけないな… 「おい、はた。 意見言ってないのお前だけだぞ」 と、茂知の鋭い声が飛んできて、僕ははっとした。 ファンミの打ち合わせ中だった。 これが終わったら、冠番組の内容の打ち合わせもある。 「あ、ごめん…」 全く話を聞いていなかったため、もう一度説明してもらった。 「映画のあれこれで忙しいのは分かるけどよ、俺らだって本気でやってんだからな」 茂知の言うことは当たり前のことだ。 「本当にごめん」と僕は再度頭を下げる。 「実さんがぼーっとするなんて珍しいですね。 何かあったんですか?」と茶之介くんに訊かれる。 まさかメンバーたちがいる前で、蜂谷さんの事を言えるわけがない。 「ごめんね。本当に何でもないよ」と僕は首を振って、話題を戻した。 それから無事、打ち合わせが終わり、冠番組の方も初の俳優がゲストということでいつもよりは難航したけれども、話をまとめることは出来た。 どちらも上手くいくといいな… 迎えたファンミーティングの日。 最近はファンクラブの会員も増えて、なかなかチケットが取れないとファンたちが嘆いているのをよく聞く。 それでも、前回までは僕のファンの子はほとんどいなくて、チェキや握手の列は閑散としていた。 なのに…、今日はちゃんと列ができている。 まあ、もちむぎに比べれば少ないんだけれど。 「茶畑尊くて好きです」とか「映画観ました!」とか嬉しい言葉をかけてくれる。 「ありがとうございます」と笑いかけると、黄色い声をあげてくれた。 こんなこと初めてなので、若干困惑してしまうけれど、喜んでもらえるのなら嬉しい。 僕の列が空になり、少ししてから茶之介くんの列も空いたらしい。 もちむぎはまだ並んでいる人がいる。 「ファンです!」といつの間にか僕の列に並んでいた茶之介くんが両手を差し出してきた。 「えっ!?何?」 と僕が訝しんでいると 「ファンなんですけど、握手してくれないんですか?」 と茶之介くんが口を尖らせた。 仕方なく、僕は握手をする。 「いつも応援してます!」 茶之介くんが笑顔で手をぶんぶん振る。 「え、あ、ありがとう?」と僕が言うと、黄色い声援が聞こえた。 ファンミは撮影OKにしているし、SNSへの投稿も規制していない。 黄色い声は僕たちにカメラを向けていたファンの子たちの声だった。 握手&チェキを終えた子達が席に座って僕たちを眺めていた。 茶之介くん…、ファンサの鬼か!? ファンの子たちへのサービスかと思い至り、それからはちゃんと笑顔で茶之介くんともチェキを撮る。 何をするにしても、茶畑だと黄色い声が上がるので面白かった。 スタッフもノリノリで「お時間でーす」と茶之介くんをはがしてくれた。 茶之介くんははがされながらも「ずっと応援してます~!」とファンを演じていて、見ている子たちは笑ってくれた。 4人だと空いた時間にこういうエンタメもできるのかと、茶之介くんを見直した。 ファンミは無事、大盛況で終わった。 今日の様子をSNSに上げている子もいて、プチバズりしていた。 更にファンが増えていくのだろうか。 もちろん、有難いことだし嬉しいけれど…、僕、アイドル辞められるのかな、と少し複雑な気持ちになった。

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