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第43話 波乱の共演
そして、いよいよ今日は冠バラエティ番組”餅麦茶畑でつかまえて”の収録だ。
僕は少しだけ胃が痛かった。
何せ、蜂谷さんからのお誘いを断り続けている。
携帯が頻繁に通知音を鳴らすので、彼の通知だけミュートにしていたくらいだ。
だから、顔を合わせるのが少々気まずい。
控室に蜂谷さんが着いたとのお知らせがあったので4人で挨拶に行く。
一応、僕がリーダーなのでノックをして部屋に入ると、「はたちゃん!」と嬉しそうに蜂谷さんが立ち上がる。
「餅麦茶畑です。本日はよろしくお願いします」
と、僕は努めて事務的に言った。
続けてメンバーも「お願いします」と頭を下げる。
蜂谷さんは「すごい!アイドルって感じだ。こちらこそ、よろしくお願いします」とほほ笑んでいる。
「うちのがお世話になってます」と茂知が言った。
普段、挨拶の時はあまり話しかけないから、不思議に思いつつも茂知を見上げる。
言葉の割に、表情は険しかった。
おい、もうちょっと柔らかい表情で言えよと心の中で茂知に説教をしていると、
「仲良くさせてもらってます」と蜂谷さんがにこやかに答えた。
流石俳優。
「今後もお泊りし合う仲にしていくから、週刊誌とかにすっぱ抜かれたらごめんね」
と、蜂谷さんがとんでも爆弾発言をした。
「「は?」」と、3人の声が重なる。
もちろん、もちむぎと茶之介くんだ。
「ちょっ!?万が一でもそれはないですから!!
蜂谷さん、テキトーなこと言わないでください!
3人も信じないこと!」
と双方に声をかける。
せっかく新体制になって波に乗ってきてるんだから、グループには絶対に迷惑を掛けない。
「俳優なのにすっぱ抜かれるなんて脇が甘いんじゃないすか?
俺たちは畠山にそんなこと絶対させないんで」
茂知が厳しい声でそう言い、僕の肩に手を回して颯爽と楽屋を出ようとする。
僕は「え!?ええ!?」と困惑し、なんとか抵抗しようとしたけれど、180超えの大男の力には敵わなかった。
引き摺られるようにして部屋を出る。
後ろに続く麦と茶之介くんが、蜂谷さんとどんな視線のやり取りをしていたかを、畠山には知る由もなかった。
そのまま流れるように収録のセットに向かう。
「茂知。確かに蜂谷さんの発言は悪いと思うけれど、ゲストで来てくれた方にああいう態度はダメだよ」
と歩きながら抗議したが、返ってきたのは舌打ちだった。
全く、可愛くない子。
「もちじゃないけどさ、あの人とは仲良くしない方がいいんじゃない」
と麦が言う。
基本的に人当たりが良い麦がそんなことを言うなんて意外だ。
「俺も危ないと思います」と茶之介くん。
無事、「お前が言うな」ともちむぎから総ツッコミをされていたけれど。
確かに蜂谷さんはグイグイ来るけれど、わざわざ気を付けるほどの危険人物には思えない。
でも、3人の意見が満場一致するなんて珍しい…
しかしながら、今日の収録は無事終わるだろうか…
どうか揉めずに済みますようにと、心の内で祈った。
心配は杞憂だったようで、全員プロと言うこともあり、なんなら巻きで収録は終了した。
何とか終わった、と肩の力を抜いたところで、収録の流れで隣に座っていた蜂谷さんから引きはがされた。
「さ、楽屋に帰りますよ、実さん」
僕を無理やり立ち上がらせたのは茶之介くんだった。
立ち上がらせる、というか半分持ち上げられているけれど。
蜂谷さんは、初めポカンとして僕たちを見上げていたが、やがて不敵にほほ笑むと
「”今”は餅麦茶畑のはたちゃんだからね。
そうじゃなくなったときは遠慮しないから」
と言った。
僕は蜂谷さんが何を言っているのか分からず、首を傾げた。
が、茶之介くんは「そんな”とき”は来ませんから」と言い捨てると僕を連れて4人の楽屋に戻った。
楽屋では、それぞれからあまり蜂谷さんとかかわるな、とか、泊りに行くな、とか注意された。
この歳になって、他人から人付き合いをあれこれ言われるのには、ちょっと憤慨しそうになったけれど、
僕としても蜂谷さんとは付き合い辛い部分もあったので肯定的に頷いておいた。
アイドルをしているうちは恋愛のスキャンダルはご法度だもんね。
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