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第44話 2人きりのロケ
「ごめん、ここの4人でのロケなんだけど、ブッキングしちゃってて…、茂知とはたちゃんだけで行くことになったから」
申し訳なさそうに謝るマネージャー。
マネージャーがブッキングさせてしまうなんてかなり珍しい。
僕は「番組の方でそれで問題なければ大丈夫です」と言って、別々に仕事をすることになった。
事務所としては、もちむぎか茶畑で行かせたかったようだけれど、ブッキングした仕事が麦のモデルの仕事で、今回は相方に茶之介くんの指名があったので変えられない。
茂知とだと背丈がほぼ変わらないので、今回は10cm近く背が高い茶之介くんと撮りたいとのことらしい。
茂知、へこんでるかなと思って声をかけてみたけれど「モデルの仕事が嫌いだから今後は新人が代われるなら代わってくれ」と言っていたのでノーダメージっぽい。
「俺も実さんとロケ行きたい」と駄々をこねる茶之介くんを引きずって、麦はフランスに向かった。
今回の撮影はフランスだ。
そりゃ断れない仕事だよね。
それで、僕は茂知とともに打ち合わせをし、ロケに向かった。
ディレクターに「4人で来るところが2人になってしまってすみません」と謝ったが「まあ、1番人気のメンバーがいるし、ロケの費用も浮くから大丈夫」と言われた。
なかなか下賤な人らしい。
僕たちとしては助かったけれど。
それにしたって、茂知と2人きりになるのなんて、いつぶりだろう。
茶之介くんが来て、すぐぐらいのときにあった気もするけれど、4人体制になってからは滅多にない。
以前は、麦にソロの仕事があれば、必然的に茂知と2人きりだし、逆に麦と2人きりのこともあった。
最近、もちむぎとちゃんと話せていないかもな…
待機中、僕のスマホが通知音を鳴らす。
しかも連続して。
多分、蜂谷さんだ。
今日は通知切るの忘れてた。
誤ってタップしてしまうと”既読”がついてしまうので、一通り音が鳴りやむのを待つ。
蜂谷さんは、最近、仕事・プライベート関係なく、面白かったものの写真とか感想とか、とりとめのないメッセージを送ってくる。
いちいち返すとすぐに返信が来るので、溜めておいて1日の終わりに返している。
合間に挟まっている「また遊びにおいでよ」のところだけは華麗にスルーして。
「はたのスマホ、鳴ってる」と茂知に突っ込まれる。
「うん」
「珍しくね?見ねぇの?」
茂知が訝しげな眼で僕を見る。
珍しくね?は普通に失礼だと思うんだけど。
「ああ、うん。蜂谷さんだから。
五月蠅くしてごめんね、今通知切る」
そう言って携帯を取り出すと、茂知に「なんであいつと連絡とってんの?」と訊かれる。
「さあ?なんか蜂谷さんから送ってくるんだよね」
「無視すればいいだろ」
と睨む茂知。
それが出来たら苦労しないっての。
「今回の映画がすごく好評だったから、また、蜂谷さんと僕が出る映画を作ろうかなって矢島監督が言ってて、無下にできないよ。
それに、蜂谷さんは別に悪い人じゃないもん」
僕がそう言うと、茂知は露骨に眉を歪めた。
「悪いだろ、十分」
「良い人だって!優しいし!
まあ、おそ…」
襲われたのは犯罪なんだけど、と言いかけて口を噤む。
そんなこと言ったら、蜂谷さんの俳優人生が終わってしまう。
「おそ?」と、茂知が怪訝な顔をする。
「なんでもない。
とにかく、皆警戒しすぎ!
どう考えても蜂谷さんの方がファン多いんだから、変なことはしないはずだよ。
こないだの週刊誌がどうとかも冗談でしょ」
「はぁ?あれは冗談って顔じゃ…」と茂知が言いかけたところで、
ADさんが「そろそろ再開します」と呼びに来たので、僕は椅子から立ち上がった。
「まずは仕事。行くよ、茂知」
と僕が言うと、彼は溜息をついて立ち上がった。
その目は『後でちゃんと問い詰めるからな』と言っていた。
随分面倒くさいことになっちゃったな…
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