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第46話 2人きり
ロケが無事終わり、僕たちは事務所の送迎車に乗る。
「あ~…、苦しい…」
と僕は、満腹を通り越してパンパンのお腹を摩った。
「残せばいいのに全部食うからだろ」
茂知が呆れたように言う。
茂知だって、甘いもの以外はすべて完食していた。
茂知も茶之介くんもデカいからか胃のキャパシティが大きい。
「だってさ…、残すなんてできないよ」
ロケとかで出る料理が、本当に撮影後スタッフが食べているのか、芸歴6年目でもまだ分からない。
そもそも、僕がスタッフならどんなに美人の女優さんでも、食べ残しを食べるのはあまり良い気持ちがしないし…
「僕も茂知くらい胃がデカければなぁ」とぼやく。
「胃はデカいけど、甘いもんは食えねぇぞ」
「えっ、それはやだ!」
と即答すると、茂知は鼻で笑って携帯を見始める。
麦はよく好き嫌いをするけれど、茂知は甘いものだけが食べられない。
だから、ロケの時はなるべく甘いものを僕の前に置いて、茂知のコメントが必要そうなときは食べさせている。
まさか突っ込まれるとは思わなかったけれど。
他番組であれ をするのは辞めようと思った。
「夜ご飯どうする?」と一応茂知に訊く。
「俺は良いけど、はたが食えないだろ」
「そうなんだよね~」
今のところ何も食べられない。
でも、麦も茶之介くんもフランスに行っていて、このまま家に帰るのも寂しい。
「じゃあさ、家来ない?」
と僕が提案すると茂知は目を見開いた後に「パス」と言った。
断られた…、とムッとする。
「じゃあ、茂知の家に行く」
「もっと無理」
ぴしゃりと言われて、僕は「そんなぁ~」と隣に座る茂知にしな垂れ掛かる。
「だって麦も茶之介くんも日本にいないんだもん。
寂しくないの?」
麦の撮影は大抵が国内なんだけれど、たまに国外の時がある。
そういう時は茂知も連れていかれたため、僕はいつも一人残されていた。
でも今回は茂知は僕の隣にいる。
急に離れがたくなってしまった。
我ながら酷いダルがらみである。
「おい、くっつくな」と、茂知が僕の顔を掴んで離そうとする。
僕は負けじと茂知にひっつく。
「なんでそんな冷たいこと言うの、反抗期なの?」
「ちっ…、うぜぇ…」
そんな攻防を繰り返す中、僕の携帯が震えた。
茶之介くんかな?と思って開くと蜂谷さんからだった。
『はたちゃん、そろそろ家においでよ~』
この際、蜂谷さんの家に行っちゃってもいいか。
でも…、またヤることになっちゃったら不味いよね…
「蜂谷さん家かぁ…」
と僕が呟くと茂知が「は?」と低い声を出す。
「だってさ、茂知がうちに来ないんだったら、蜂谷さんのお誘いにのるしかじゃん」
僕が口を尖らすと、茂知はクソデカ溜息を吐いた。
「分かった。はたの家に行く。
だからそいつはブロックしろ。二度とかかわるな」
「ブロックは無理だけど…、ありがとね茂知」
僕が満足げに言って肩に頭を擦りつけると「マジでうぜぇ」と言う言葉が返ってきた。
なんだかんだで茂知は優しいんだよね。
そうやって茂知を家に連れ込んだは良いものの、お腹はいっぱいなのでテキトーに時間をつぶすしかない。
茂知はあまり映画とか観ないんだよな…
「何する?」
「…、帰っていい?」
「だめだよ。じゃあ一緒に映画観て」
「映画ぁ?」
不服そうな茂知をリビングのソファに座らせる。
「茂知も俳優やりたそうだったじゃん。
勉強だと思って観ればいいよ」
僕はサブスクの画面を出して、「どれがいいかな~」とザッピングする。
最初っから洋画だと取っつきにくいかな?と思って邦画から選ぼうとしたところで、「あ」と茂知が声を発した。
古い洋画のタイトルを茂知が呟く。
「これにする?観たいの?」
まさか茂知が興味を示すとは思わなくて驚く。
茂知は少し苦い顔をした後に「父親に見せられた。小さいころに」と言った。
「そうなんだ。観る?」
と僕が訊くと、茂知は頷く。
今、茂知にはお父さんがいないらしい。
そして、彼はグループ結成前から彼は1人暮らしをしている。
その理由は未だに聞けていない。
だけど、僕から訊くのは野暮だから、僕は頷いて映画を再生した。
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