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第47話 初めてのお泊り(茂知が)
その洋画はよくあるハリウッド映画の様で、それほどストーリーは複雑ではないけれど、アクションがかなり派手だった。
流石ハリウッド。
日本じゃ、この規模の撮影はかなり難しいだろうな…
ちらりと茂知を見る。
普段、映画やテレビをつけていても、一切画面に興味を持たない茂知が注視している。
思い出の作品とかなのかな、なんて邪推をしつつ僕は手持無沙汰になったので、飲み物や軽食を取りにダイニングに行った。
いくつかお盆に乗せて戻ったけれど、茂知は僕の動向など一切気に留めずずっと画面を見ている。
こんなに集中している茂知は珍しい。
まあ、仕事に関する資料はかなり集中して目を通しているけれど、プライベートじゃまず見ない。
そっと飲み物を手渡すと「ん」と言って受け取り、少し口をつけた。
ノンアルでもいいかなとは思ったけれど、自分用にお酒を用意したのでついでに茂知のもお酒にした。
どうせ明日の夜にしか麦たちは帰らないから、明日はオフなんだ。
お酒を飲んで映画を見ているうちにだんだん眠くなってきた。
茂知を見上げるが、まだ画面を見ている。
こんな風に放置されることが珍しいから、薄っすら寂しい気持ちになる。
だんだんと舟を漕ぎ始め、気づいたら僕は茂知の肩に頭を預けて眠ってしまった。
目が覚めると、僕はまだ彼に凭れ掛かっていた。
テレビはさっきとは違う映画が流れていて、恐らく自動再生で次のが流れ始めたのだろう。
「映画終わった?」と掠れた声で訊く。
どれくらい寝てたんだろう…
「とっくにな」と茂知は言った。
でも、普段のような覇気はなく、どこか表情が暗かった。
「どうしたの?」
「なんでもねぇよ。
寝るなら部屋で寝ろ」
茂知はそう言うが動かない。
こいつは一晩こうしているつもりか…?
「じゃあ、茂知も寝よう?」
「いや…、俺は帰る」
時計を確認する。
午前3時。
タクシーだとしてもこの時間捕まらないだろう。
何より、僕が茂知に家にいてほしい。
「なんで?泊っていってよ」と、自分でも分かるくらい甘えた声が出る。
「…、無理」
「ひど~」
あまりにすげなく断られたので思わず笑ってしまった。
そんな僕を茂知がじーっと見てくるので「どうしてもだめ?」ともう一度聞いた。
我ながらしつこい。
茂知は一瞬詰まった後、「泊まらない」と言う。
「え~、もち帰るのぉ?寂しいなぁ。
寂しいから蜂谷さん呼んじゃおうかな」と言うと、
茂知は眉を寄せた後に「…泊まる」と渋々言った。
あとになって、少し申し訳なくなった。
「茂知も麦も絶対泊まらないよね。
僕の家が嫌?」
長年思っていた疑問を吐き出す。
まあ、飯は食いに来るのでそうではないと思ってるけど。
「そういうわけじゃない」
「じゃあ、なんで?」
僕が食い下がると、茂知はくそでか溜息を吐いた後、
「手を出しそうになるから」
と苦虫を嚙み潰したような顔で言った。
手を…出しそうに…?
「殴るってこと!?
やっぱり僕の事嫌いなんじゃん!!」
僕は仲良くしてたつもりなのに…
まさか、麦も同じく僕の事嫌いなのか!?
「はぁ!?ちげぇだろ!
その読解力でよく役者やれたな!」
と茂知が目を剥く。
「ふふっ、いつもの茂知だ~。
もう僕は動けないから寝室まで運んで~」
と茂知に抱き着く。
「ほんと最悪」と最初は抵抗していたけど、負けじと縋り付いていたら諦めたらしく、また溜息を吐いて僕を持ち上げた。
「高ーい」と茂知に縦抱きにされたままはしゃぐ。
背が180cm以上あるっていい気分なんだろうな。
「お前、本当に酒飲むと厄介だな」
「んえ?寝たからほとんど抜けてるけど」
「だとしたらもっと最悪だわ」
寝室に着くと、あんなに悪態をついていたのに優しくベッドに降ろしてくれた。
本当に根が優しい奴なんだから。
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