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第51話 上手くいかない
普段はオフでも自主練なり、家事なり、色々やるけれど今回ばかりは全く何もできず、食事も宅配で済ませた。
どんなにだらだら過ごそうと、朝は来る。
今日はフランス組が帰ってきて、また4人で練習をする。
またライブが開催されるからその打ち合わせもあるし、新曲だって出さなきゃいけない。
でも…、茂知に会うの気まずいなぁ…
茶之介くんは割とすげなく断れるけれど、茂知は…
振ったら、どこか僕たちの関係が壊れてしまうような危うさがあった。
それだけ長く、僕たちの関係メンバーであり、仲間であり、同志であったんだ…
急にそこに”恋愛”という要素が加わると不安定になる。
僕は重い気持ちを引きずったまま事務所に向かった。
事務所では既に茶之介くんがいて、練習をしていた。
「おはよう」
「おはようございます!!」
いつも通り元気な挨拶が返ってきて、少し気持ちが上向きになる。
「昨日の夜にやっとフランスから帰ったのに、偉いね」
「ありがとうございます。
あっちで見たモデルさんたちが皆、骨格パリって感じで、レベルの違いを痛感したんです。
だから、ボディメイク頑張ろうと思って!」
レベルの違いを感じても腐らずに挑戦しようという気持ちが何より眩しい。
彼ならきっと大丈夫だろう。
「頑張れ」と僕が言うと、茶之介くんは満面の笑みで頷く。
「そういえば、麦さんって本当に凄いんですよ!
ずっと落ち着いてるし、フランスの人からの指示もちゃんと理解してて」
「撮影で良く行くから、フランス語を勉強したって言ってたなぁ。
よく考えたら確かに凄いよね。肝も据わってるし」
と僕が賛同すると「そうなんですよ!それで…」と茶之介くんが活き活き語りだしたのも束の間、「おはよ~」と麦の声がした。
僕は体を固くした。
麦が来たということは…
茶「おはようございます!!」
もち「…っす」
茂知も来たということだから。
「おはよう」と僕は振り返って、麦に「遠征お疲れ様」と言う。
なるべくその後ろの茂知を見ないようにして。
「梅ちゃんはねぇ、茂知と違って色々調べてくれたり、話しかけてくれたりしたから全然苦じゃなかったよ。
次回からも梅ちゃん連れて行っちゃおうかな。
見習ってほしいよね、もち」
と、麦が思いもよらない方向から茂知を引っ張り出す。
「え、ええ?
茂知も連れて行ってあげなよ」
と僕は言ったけれど、茂知は舌打ちをして「別にいい」と言った後に「早く練習しろ」と言ってストレッチを始めた。
麦は「え~、もう?」と不服そうだ。
僕もあわてて茶之介くんと一緒にストレッチをした。
今日のレッスンは散々で、僕はめちゃくちゃ講師に怒られた。
こんなに怒られたの、5~6年ぶりってくらいに。
でも、茂知が視界に入ったり、ダンス中にちょっとぶつかったりしただけで過剰に反応してしまうんだから仕方がない…
明日からどうしよう…、と頭を抱えた。
最後にライブの打ち合わせをしてこの日は終わった。
「晩御飯、どうするんですか?」という茶之介くんの問いにも「ごめん。僕は1人で先に帰るね」と断る。
リーダーがこんなんじゃ、メンバーは不安だよなと申し訳なく思いつつも、今は公私混同が止まらない。
でも、距離を置くしか、僕には方法がなかった。
帰宅してベッドに突っ伏していると、麦から「今から行っていい?断らないよね?」とメッセージが来た。
あまり人に会いたくはないけれど、茂知じゃないならいいかと「いいよ」と答える。
しばらくしてからインターフォンが鳴った。
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