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第53話 5年後の僕たち

それから5年が経って、さらに餅麦茶畑は人気のグループとなった。 デビューから11年間も人気を獲得しているを自分でもすごいなと思っている。 そして、大きくなったグループをより効率的に管理するために事務所にプロデューサーを置くことになった。 が、なかなか適任者が見つからないらしい。 僕はもう、33歳になる。 だから、これを機に餅麦茶畑を抜けて、プロデューサーに立候補した。 社長やマネージャーにはかなり渋られたけれど、「辞めたい」と言ってから5年も続けたことや、会社全体(餅麦茶畑以外の事務所に所属するグループも含めた)への理解度を買われて、いよいよプロデューサーに移行することになった。 僕が出るのを最後にしようと考えているライブの打ち合わせの後、僕は3人にこの場に残るように言った。 メンバーへは先に自分の口から伝えたい。 「なんだよ」と茂知が言う。 こういう時に真っ先に口を開くのは茂知だ。 大方、早く帰って曲の作り込みをしたいのだろう。 「時間取らせてごめんね。 今日は、僕から皆に言いたいことがあるんだ」 僕がそう言うと、茶之介くんが姿勢を正した。 皆の顔を見回し、深く息を吸って口を開く。 「僕、次のライブで餅麦茶畑を抜けます」 そう言い切った後、3人は誰も言葉を発しなかった。 驚きする声も落胆する声も聞こえない。 「…ええ?」と、自分が先に困惑の声を漏らしてしまった。 「え、えっと…、俺はめちゃくちゃ困惑してますよ! 実さんが抜けるなんて絶対に嫌です!!」 と、茶之介くんが言う。 「まあ僕も嫌だけど…、茶之介くんが入る前からそういう話はあったし…、まあ?」と麦が言った。 「そうなんすか!?知らなかったの俺だけすか!?」 そんな風に麦と茶之介くんがしゃべる中、茂知だけは一言も発さない。 「で、グループは抜けるんだけど、事務所全体のプロデューサーになることになったから、仕事上はまだまだ付き合いがあるのでよろしくお願いします」 と僕は皆に頭を下げた。 麦は「なるほどねぇ」と頷き、茶之介くんは「実さん、嫌だけど嬉しいです。嫌だけど」と半泣き。 茂知は変わらずに無表情で、僕には彼の心情は図りかねた。 「もっともっと餅麦茶が輝けるように精一杯プロデュースするからね。 とにかく、今は次のライブに向けて4人で頑張ろう」 とその場を締めた。 それから、なんとなく茂知の反応が気になったので帰る途中でメッセージを送った。 『今日の事なんだけど、茂知の気持ちも聞きたい。 どっちかの家で会えない?』 そういえば、茂知に告白されて以降、僕は1人で誰かの家に泊まったり、誰かを止めたり、というのを控えていた。 3人からの告白を受け取って延期しておいてそれはよくないと思ったからだ。 まあ、我が家でメンバー全員でご飯を食べることはあったけれど。 『危機感を持てアホ』と返信が着た。 怒っているスタンプを送ってやろうと吟味しているところで追いメッセージが来た。 『〇〇で飯を食うついでなら会ってもいいけど』 ○○というのは、以前からよく使用していた個室居酒屋だ。 匿名性が高いところで安心して利用ができる。 『分かった。19時には行ける』 そう送ると、「り」とだけ返ってきた。 り… ジェネギャを感じつつ、携帯を鞄に仕舞った。 そして付箋だらけの脚本を取り出す。 実は、矢島監督の映画にまた出させていただくことになった。 今回は、蜂谷さんはいないけれど、多くの有名俳優と共演するため、かなり緊張感のある現場になっている。 そういえば、蜂谷さんは去年、とある女優さんと熱愛疑惑が報道されていた。 蜂谷さんの事務所は全否定。 彼本人からも「俺ははたちゃん一筋だからね!!」と弁明されたけれど…、熱愛が本当であって欲しかった。 5年も経つのにまだ僕なんかを好きって凄いと思う。 茶之介くんも茂知もだけれど。 居酒屋に着くと、既に茂知は着席していた。 「お疲れ様。急にごめんね」と言ったけれど、さっきと同じ無表情で「ああ」と言っただけだった。 飲み物を注文し、「料理何する?」とメニューを広げたが、茂知は「なんでもいい」と言ったきり無言だった。 飲み物が来たので「乾杯」と言って無理やりグラスをぶつけた。 「で、茂知は僕の脱退についてどう思ったの?」

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