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第55話 終幕

まあ茂知がどこにいるのかなんて目星は着いているんだけどね。 僕は真っ先に小会議室に向かった。 やはり、茂知はそこでイヤフォンをして歌を口ずさんでいた。 茂知は歌が本当に好きだなと感心しながらも、彼の肩をたたく。 茂知はイヤフォンを外して、少し不満げにこちらを見上げる。 まるで音楽を止められたことが不満といった顔だ。 毎度同じことをされているのに律儀に同じ反応を返してくる。 「休憩終わりだって。 早く戻るよ」 僕がそう言うと、彼は「ああ」とだけ答える。 これが本当に僕を好きな態度なのか…? と、少し疑問に思うんだけれど。 「僕がいなくなったら誰が呼びに行くんだろうね~。 やっぱ茶之介くんかな」 「別に…、はたが来ないなら時間見て自分で戻る」 茂知の一言に僕は「はぁ!?」と目を剥く。 「僕だからわざとやってたってこと!? やっぱ茂知って僕の事嫌いだよね!?」 じゃなきゃ辻褄が合わない。 すると茂知は溜息を吐いた。 やれやれといった様子で 「お前本当に鈍感だな。 2人きりになりたいからに決まってんだろ」 と言った。 「そ、そうなんだ…」 急なデレにこっちが照れてしまう。 そういえば、茂知が書く曲ってロマンチックな曲が多いんだった。 茂知は”柏茂知”名義でも曲を出している。 茂知のガチファンは、アイドルの時の王子っぽさとの違いが良くて、ソロの活動もめちゃくちゃ推しているらしい。 何とも言えない空気のままレッスン室に2人で戻る。 僕たちを見るなり、茶之介くんが「茂知さん、実さんになんかしました!?」と声を上げた。 僕が相当変な顔をしていたのだろう。 上手く隠せるようになったと思ってたんだけどな。 茂知がめんどくさそうに「なにもしてねえよ」と言う。 そこへ講師が「梅ちゃん、レッスンに集中しなさい!もちちゃんも毎回毎回探させない!」と鋭い声が飛ぶ。 2人は「すみませーん」と言いながら、レッスンに戻る。 こうやってわいわい練習に参加できるのも残りわずか、なんて思うといちいち感傷に浸ってしまう。 それだけ、アイドルとしての11年は僕の人生の中で間違いなく濃くて幸せな時間だった。 最後のライブ。 そう思って普段の何倍も自主練に明け暮れた。 入所当時くらい練習をしている気がする。 でもそれがとても楽しくて、ちょっとだけ卒業するのが惜しい気持ちちになった。 そして迎えたライブ当日。 嬉しいことにいつもよりも僕の色のペンラが多い気がした。 最後の曲は、メンバーからの厚意で僕のソロ曲。 この日のために茂知が書きおろしてくれた曲だった。 ふと、緑のライトを持っているファンの子たちが目に入る。 皆、笑顔で楽しんでいる様子だけれども泣いていた。 握手会に最近並んでくれていた子も何人かいる。 その瞬間、僕の11年間が実っていたという実感が湧いて、思わず声が震えた。 不人気でやってきたけれど、折れずに続けてよかった。 あの時、辞めてしまわないで良かったと心から思った。 そうして湿っぽく最後の曲は終わったけれど、アンコールの声とともに4人はまたステージに戻る。 明るくポップなデビュー曲を歌って、僕の卒業ライブは幕を閉じた。

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