6 / 63

楽しいデート 1

 ネットで質問をした数日後、もう何件かの回答をもらった。そのうちの一つに気になるものがあった。 「彼女はまだあなたと体を合わせていいと思っている程あなたのことを知らないのかもしれない」というものだ。  その回答に裕司はハッとさせられた。この二年間確かに食事に行ったりお互いの家に行ったりしたことはあるが、自分の性格上自分のことを話すということはあまりなかったのだ。  大抵聞き役に回ってしまい、自分のことは話した記憶がない。斯くいう宮子もよく喋る方かと言われるとそうでもなく、二人でいるのに無言でいる、なんてことも少なくはない状況だ。確かに知らない相手と体を重ねるなんてことは普通はない。これでは宮子が嫌がっても仕方がないというものだ。  そのため裕司はデートの回数を増やそうと思い立った。そうすればお互いのことを知れるし宮子が嫌がることもなくなるだろう。  善は急げだ。裕司は早速宮子に映画を見ないかとメッセージを入れた。  色々と話し合った結果、映画館でアクション映画を一本、裕司の家で映画を二本見ることに決まった。家で見る映画は宮子の好きそうなものをセレクトする予定なのでまだ決めていない。  そうして二人の休みが重なった休日。  裕司はかなり早めに集合場所に着いていた。これは裕司の癖で、電車の乗り換えや遅延を考慮した結果三十分以上早く着いてしまうのだ。しかし遅れるよりはいい。  裕司はデザイン性のある石のベンチー断面が滑らかに整えられており座りにくいーに座った。  メッセージアプリを開くと、宮子が今電車に乗ってます、後十分ほどで着きます、と連絡がきていた。  それと写真が一枚。これはいつものことだが、宮子はデートの際必ず靴の写真を送ってくる。最初の頃はよくわからなかったが、気づけばこの写真からどんな格好をしてきてくれるのか予想するのが楽しみになった。  宮子はおしゃれだ。裕司なんかよりよっぽど。裕司はその辺の安い服屋で上下揃えた服で、清潔感さえあればいいと思っている。  けれど宮子はそうじゃない。デートのたびに綺麗に化粧をしてくれて、毎回違う服を着てくれる。宮子は身長が高い分少し大きめの服をいつも探していると言っていた。それが本当に綺麗で似合っているのだ。  今日の宮子は靴は黒のヒールが少しあるブーツだ。どんな服を着てくるのだろうか。宮子はどんな服でも着こなすから本当に楽しみだ。そう思いながら僕は着きました、気をつけて来てくださいとメッセージを送る。  それから…メッセージをもう一度見返す。上にスクロールすると履歴が見れるが、二人の会話はどこか他人味のある会話が続いていた。  常に敬語で、少しの小話と世間話ばかりが残っている。これもどうにかしないといけない、と裕司は思う。このまま夫婦になるならこのいつかこの会話が堅苦しく感じてしまうかもしれないから。  メッセージから十数分後、宮子が小走りに裕司の元に駆けてよってきた。

ともだちにシェアしよう!