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楽しいデート 2
「お待たせしました!」
今日の宮子はニットワンピースを着ていた。今は秋口、ワンピースの色はベージュで季節と合う。腰には黒いベルトをしていて宮子のすらっとした体をさらに細く見せてくれる。肩から黒い紐がついたポーチを提げており、銀色の留め口がアクセントだった。
着いたことに安心したのか宮子はほっと一息ついた後、前髪を整える仕草をした。
「そんなに待っていないから大丈夫ですよ」
「ありがとうございます、でもすみません」
ぺこり、とお辞儀をする宮子は律儀だ。
「あの、あと…今日も、似合ってます」
服を褒めるのはいい男の第一歩。何かの本で読んだ文章の一つを思い出す。
褒められた宮子は少し頬を赤らめて、ありがとうございますと礼を言った。もう何回と褒めているはずなのに、宮子はこうして何度も照れてくれる。そういうところも可愛い。
なんともいえない空気が流れる中、それを先に断ち切ったのは宮子だった。
「い、行きましょう。アクション映画楽しみです!」
「そうですね、行きましょう」
裕司がいつものように腕を差し出すと、そっと宮子が腕を絡めてきた。ここから映画館は歩いて十五分ほどだ。
最初の頃はこのような行動すら恥ずかしがってできなかった。特に裕司は女性経験がない。どう接すればいいのか迷うことが多かった。常日頃から提案してくれるのは宮子の方で、手が繋ぎたい、腕が組みたい、と先に言ったのも彼女の方だった。
キスに関しては流石に裕司がリードしたが。
紅葉しつつある街路樹の道を話しながら通り抜けていく。パートの女の子が辞めることになった、この間の飲み会で社員がアルハラに近い行為をしていた、など、主に会社のことについて話す。
宮子との会話は本当に楽で、気がつけば行き場のない愚痴を吐いてしまうほどだった。それに対して宮子は特にアドバイスなどをかけることなく、ただただうんうんと頷いて聞いてくれる。
同僚と飲みに行く時はアドバイスが欲しくて話すことが多いが、宮子と話すときはどうしようもない出来事しか話さない。
しかしはて、これではいつものデートと同じでは?と裕司が気づく。この後に続くのは宮子の会社のことと、最近のニュースのことだ。いつもと同じ。
これじゃだめだ、と裕司は立ち止まった。すると宮子も自然と足を止める。
「裕司さん?」
「宮子さん!」
少し声を張って彼女の名前を呼ぶと、宮子はびっくりしたかのように「は、はい」と返事をした。
「最近何をして過ごしてますか」
「え、最近?」
「そうです!僕たち会社のこととか世論のことばかり話して普段何してるとか話さないじゃないですか。それってよくないなって思って」
「ああ、そうですね…確かに」
なにがよくないかは話していないが、コクコクと頷いてくれる宮子。少し俯いて、宮子は朗らかに微笑みながら裕司を見上げる。
「最近はパズルにハマっています。時間はかかるんですけどたくさんピースがあるやつを選んでやってますね」
「パズル、いいですね。完成したものは飾っているんですか?」
裕司が歩き出すと同じように宮子も歩き出す。宮子がパズルにハマっているなんて知りもしなかった。宮子は完成したものは基本飾らずにもう一度バラし箱に戻すと言う。時々気に入ったものは小さいものならテーブルの上に飾ったり壁にかけたりするらしい。
そういえば長らく宮子の部屋に行っていない。その頃は額縁なんてなかったからあれ以降はまった趣味なのだろう。
宮子の部屋は1LDKで、いつ行っても小綺麗に整理されている。キッチンも常に綺麗で、物もそこまで多くない。対して裕司の部屋は2LDKなのにものがかなり散らかっていた。元々片付けるのが苦手なのである。
「裕司さんはパズルはしないんですか?」
「僕は、簡単なのはいいんですけど、難しいのは苦手で…途中で諦めちゃうんですよね」
「なるほど…ピース数が多いとやっぱり苦戦しちゃいます?」
「そうですね」
そこで会話が途切れてしまう。せっかく宮子が話題を提供をしてくれたのに早々に終わってしまうなんて勿体無い。裕司は他になにか言うことはないのかと自問自答した。
「ぱ、パズルのコツとかってあるんですか?」
「え、コツ?」
キョトン、とした顔で宮子が裕司を見つめる。話題を探しすぎて変なことを言ってしまっただろうか、と戦々恐々としていると、宮子は斜め右を見上げた後、うーんと唸った。
斜め右を見上げるのは宮子が悩んだ時の癖だ。
「コツ…かはわからないですけど、同じ色をまとめるってのはよくやってます」
「同じ色をまとめる」
「そう。例えば景色のパズルだったら空のピース、建物のピース、草のピースに分けたりしてます。後は端っこのピースだけ集めて先にやったり」
「あ、端を先にやるのは僕もやります」
「ふふ。そんな感じで私はやってますね。裕司さんがもしパズルをするときは参考にしてみてください」
「ありがとうございます」
いい感じに会話できたぞと達成感を得た頃、映画館に着いた。
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