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苦しい言い訳 1

 バレるかと思った。  エレベーターで裕司が他の客に押されて雅にかなり近づいた時、どきりとすると同時に体型で男性だとバレてしまうのではないかとヒヤヒヤした。 いくら細いといっても雅は男だ。肩などはどうしても女性にしてはしっかりしすぎている。  それを隠すために普段から大きめのサイズ展開をしているオンラインショップで服を買っているのだが…。 今日のニットワンピは足の筋肉が隠せる代わりに肩幅がわかりやすい服だったかもしれない、と雅は後悔していた。  早く一階に着けという気持ちともう少しこうして近づいていたいという気持ちが交差する。体つきがわかってしまうことを恐れて雅は裕司と抱き合うことすらできない。  普段からそうして一定の距離を保っているせいで、こうして近づかれることは滅多にない。どうか、もう少しこのまま…。しかし願いは虚しく、エレベーターは早々に一階に着いてしまった。  人がざっと流れ、それに沿って雅と裕司は外に出る。 「はぁ。人多かったですね、宮子さん大丈夫ですか?」 「あ、私は大丈夫ですけど…裕司さん押されてましたよね。大丈夫でしたか?」 「僕は大丈夫です。それより…近かった、ですよね。すみません」  顔を腕で軽く覆いながら言う裕司の顔はほんのり赤い。それにつられるように雅も顔が赤くなる。 「…大丈夫、です」  大丈夫と言う他なかった。  落ち着いた頃に、二人は夕食の材料をそのままショッピングセンターで買い今度は裕司の家に向かうためその場を出た。 なんの映画が興味あるだとか他愛ない話をしながらさっき通った街路樹の道を行く。 「宮子さんはどんな映画を見たことありますか?」 「最近だと、あのアニメ映画を見ました。えーと、題名が出てこない…」 「どんな内容だったか言ってくれれば当てれるかもしれません」  そう言われ近日中に見たアニメ映画の内容を話せば、裕司は腕を組んで悩むふりをした後、パッと映画の名前を口にした。 それは確かに雅が見た映画の名前だった。 「えっすごい!それです!」  小さく拍手すれば裕司は照れくさそうに頭を掻いた。 「映画はよく見るんです。本当になんでも。アニメ映画も恋愛映画も、アクション映画もホラー映画も」 「へぇ!私恋愛映画は見ないかもです」 「そうなんですね」  恋愛映画は見ていてもキュンとしない。つい自分の境遇と重ねてしまい、もし自分が男と生きれていたら、“ちゃんと“女として生まれていたらと考えてしまい見る所じゃ無くなってしまうのだ。 「じゃあ今日はホラー映画見ますか?最近新しく買ったものがあるんです」 「えっ」 「?」  確かに恋愛映画は見ないと言ったがホラー映画が好きと言ってもいない。  雅は幽霊が苦手だ。巷では幽霊より人間の方が怖いと聞くが、雅にとっては抵抗しても憑いてくるという点が怖いのだ。しかし、ここで雅の男としてもプライドが頭をもたげてくる。 幽霊が怖いなんて、そんな女の子みたいなことはない。見た目は女でも雅は男なのだ。 「い、いいですね!秋ですけどまだ若干暑いですし、残暑を吹き飛ばしましょう!」 「そうですね、楽しみです。もう一本は帰ったら決めましょう」  大人しく頷いたが、雅は家に着くのが恐ろしくなってしまった。

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