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文句のつけ所がない君 1
「最近安倍さんとはどうなんだ?」
飲み会の席で同僚の石塚が聞いてくる。それに調子づいて関田も肘で裕司を小突いてきた。
今日は全員ではないがほとんどの人間が参加している会社の飲み会だ。会社から電車で五分ほどの飲み屋で行われている。
裕司の会社行きつけで、なにかと使わせてもらっている場所だ。今日は課長が幹事をしてくれていたが、次の幹事は裕司だと決められてしまっている。これはルーティーン上仕方ないことだがとてもめんどくさい。
裕司は小突かれた肘を摩りながら、別にどうも、と答えた。これ以上何を言えばいいのかわからない。
「どうもってなんだよ。最近会ってねぇのか?」
「いや、この間会ったよ。一週間くらい前かな」
「会ってんじゃねぇか!この!」
また関田に突かれそうになってひょいと避けた。
宮子と会ったのはこの間の土曜日で、今日からちょうど一週間前―今日は土曜日だ―のことだ。映画館デートはほとんど成功と言えるだろう。名前のさん付けも外れたし、敬語も取れた。いい雰囲気になれただろう。…相変わらず行為は避けられてしまったが。まさか夕飯を理由に断られるなんて予想だにしなかった。
「で、本当に最近はどうなんだ?仲はいいのか?」
ビールを一口飲んだ石塚が具体的に聞いてくる。そう聞かれればどう答えようか迷うこともない。
「仲はいいよ。この間会ったときは映画館に行って映画を見たな。それから僕の家に行って映画を二本見た」
「へぇぇ、マジでいい感じじゃん。それからそれから?」
「夕飯作ってもらった」
「それで?」
「それで、帰ったよ」
「は?」
関田が怪訝な顔をする。その先に求めていた答えがないような表情だ。裕司だってこれ以上先のことがあったなら、赤裸々には話さずとも行為があったことを簡単に話すだろう。
しかし実際になにもないのだ。本当に、なにも。
「またダメだったってことか」
「おい関田、そんな言い方ないだろ。相良だって気にしてるんだから」
「そうかもしれねぇけどさー」
両手を組んで頭の後ろに回しいじける姿は、まるで下ネタを聞き損ねた男子高校生のようだ。
二人は裕司が宮子と付き合う前からの仲で、宮子とも面識がある。ちなみに関田と石塚、どちらも宮子に惚れていたが玉砕している。宮子の魅力はそれほど強いものなのだ。
そして二人には宮子が“そういう行為“を嫌がっているということは話してある。新卒の頃から仲良くしている二人なためある程度のことは話せるのだ。この二人なら周りに流すことはないという信頼感がある。
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