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文句のつけ所がない君 2
「ただ、さん付けが外れたし敬語も無くなった」
特に隠すような話をしていないため宮子とのトーク画面を開き隣の席の関田に携帯を渡す。対面に座った石塚が少しテーブルに乗り出して関田の手元を見る。
『この間作ってくれたナスの肉巻き本当に美味しかった。また食べたい』
『裕司が気に入ってくれて嬉しい。また作るね』
『そういえば宮子の好きなHappyMixのホットケーキ、今度食べに行かないか?』
『いいの?行きたい!』
『じゃあまた今度休みを合わせて行こう』
その後も他愛のない会話が続いている。それを見ていた関田があー!と叫んで俺の胸に携帯を突き返してきた。
「俺も彼女欲しい!」
関田はここ数年彼女がいない。別に関田は不細工な部類でもないはずなのだがどうしても彼女ができないらしい。
でも理由は明確だった。
関田は宮子のことが忘れられず宮子のように完璧で美しい女性を探しているからだ。裕司からすれば宮子を忘れられないというのは少し微妙な気持ちだったが、関田が宮子のことを寝取るなんて人間じゃないことはよく知っているためそこについては詳しく言及していない。
「頑張れ」
「頑張れ」
「お前ら!無慈悲!」
指さされた石塚と裕司の間で笑いが起きる。こうして笑っている石塚は一年前に既に結婚している。奥さんのお腹の中に新しい命が宿っていることは最近知らされた。
そのため石塚からすれば余裕の笑み、というわけである。自分は既にゴールラインに辿り着いたと言わんばかりの顔だ。
そう、結婚はゴールだ。そこからまたスタートラインが引かれるとしても、一度目のゴールは結婚だろう。
そう考える裕司だからこそ、最近は宮子との結婚を考えるようになっていた。宮子と結婚して、子供ができて、その子供が大きくなって独り立ちし、また二人に戻って、老後を迎える。そこまで裕司はプランとして考えていた。
「相良もそろそろ結婚とか考えてるのか?」
「そうだな…最近はよく考えてるよ。宮子と結婚したらどんな生活が送れるんだろうな、とか」
「安倍さんと結婚とかまじいいなぁ、憧れる。めっちゃ綺麗で料理上手、仕事もできるらしいし、何より彼氏に一途!」
そう言う関田は何度か浮気をされ別れた過去を持つ。しかも可哀想なことに半年前に別れた彼女で浮気されたのは三回目なのだとか。
そう考えると、宮子は本当に文句のつけどころがないほど完璧な女性だ。この間ネットで質問を打ち込んだ時にも書いたが、いつも小綺麗にしていて、食事のマナーも完璧。それなりに倹約家でもあり、毎月二~三万は貯蓄に回していると聞いている。部屋も行くたびに綺麗だ。結構多趣味で、特に運動が好きでバスケが得意。一度だけ見せてくれたが仕事で賞状を取ったこともあるらしい。
「宮子は、なんで僕と付き合ってくれているんだろう」
そんな彼女と付き合えているのが不思議で、そんなことを口に出してしまう。
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