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非の打ち所がないあなた 2
ついにこにこしてしまっていると、紗枝がため息をついた。
「あー私も相良さんみたいに非の打ち所がない彼氏だったらなー」
そう言ってぱくりとハンバーグを食べる彼女は、この間彼氏と喧嘩したそうだ。なんでも、元カノとこっそり連絡を取りあっていたのだとか。
そう思うと、裕司は本当に完璧な存在だった。目を見て話してくれるし、男前、女性関係はちゃんと言ってくれるし、特別なことでもないのにちゃんと礼を言ってくれる。紗枝の言う通り、まさしく非の打ち所がない人物だ。問題なんて全くない。
問題があるのは…。
「そういや、宮子ってまだ相良さんに性別言えてないの?」
ちょうど今考えていたことを紗枝に聞かれ、小さく頷く。そう、結局その点なのだ。裕司は雅のことを本当の女性だと思って接してきている。先週のアレだって雅が女性だと思っているからこそ起こったことだ。
頑張って断りを入れたが、もうそろそろ限界かもしれない。このままでは浮気を疑われる可能性も出てくる。
最初から言えばよかったのだ、自分が男だと。でも男の自分を彼が好いてくれることなどあり得るわけない、そう思ってしまうと言い出せなかった。その頃には本気で裕司のことを好きになっていたから。
何度自分が女性であればと思ったことだろう。そうすればあの行為だって受け入れることができるのに。
「まぁ、宮子が男なんてだーれも思わないよねぇ」
「えっ安倍さんって男性なんですか?!」
雅たちの近くを通った女の子が驚いてトレーを落としかけた。その女の子は先月は入ったばかりの研修中の子で、雅が男だということを知らない子だった。
雅の性別を知っているのは雅のいる部署の人の半分ほどである。知らない半分は部署移動などで動きが多いため知らないというわけだ。
伊藤が座っていいですか?と雅の隣を指差したためどうぞ、と椅子を引いてあげる。
「あー、伊藤ちゃん知らなかったっけ。これでも宮子って女の子なんだよ〜。本名、安倍 雅」
「え、ええ!知りませんでした!だってこの部署配属されてなんて綺麗な人がいる部署なんだろう…って感動したくらいなのに」
「ちょっとちょっと私は?」
「あ、稲垣先輩ももちろん綺麗です!」
「うんうんよろしい」
軽口を叩く二人を眺める。こういう会話は久しぶりだ。先ほど言った通り雅の部署の半分雅の性別は知っているがもう半分は知らない。けれど誰一人として雅を男性だと思う人がいないため、こうして男性だと話すのはあまりないのだ。
「でも、安倍先輩って誰かとお付き合いしてるって聞いた気がするんですけど」
「あ、佐野商事の相良裕司さんよ」
「えっ…男の人?」
少し引いたような声に嫌な予感がする。度々いるのだ、同性同士で付き合うことに嫌悪感を抱く人が。
「あ、伊藤ちゃんそういうの苦手な人?」
「苦手というか、安倍先輩綺麗だから…」
「あー、ちゃんと性別言ってるのかどうかってこと?」
「ええ、まぁ、はい…」
無理して理解してもらおうとは思わないから放って置いてくれと言いたいのだが、どうにも雅の見た目のこともあってそうはいかないらしかった。
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