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性別と蟠り 2

   裕司は時々こうしてじっと見てくる癖がある。付き合い始めた頃人間観察が趣味だと言っていたのをふと思い出し、今回もそれだろうと思い直した。先に話しかけてきたのは裕司だ。 「宮子の肩って綺麗だよな」 「え」 「普段見ないからさ」  今日の服は黒のオフショルにベージュのマーメイドスカートだ。…普段から女性物のブラをつけているのだが、今日はストラップレスブラジャーをつけている。そのためブラ紐は見えないようになっていた。  ちなみに今日だけカップの下に小さめのシリコン製胸パッドをつけている。胸対策はバッチリだ。  紗枝と伊藤には最後のデートになるかもしれないから、とオシャレしていくことを勧められた。その結果がこの姿なのだ。  裕司になんとはなしにするりと肩を触られどきりと心臓が跳ねる。生理と言ってあるから誘われないはずだけど…なんか、触り方が…。  なに?と聞こうとして、話すなら今じゃない?と気づいた。自分が男性だと、今まで騙しててごめんなさいと謝るのは今が絶好のタイミングなんじゃないかと。  息を吸って、あの、と声に出した瞬間、裕司も同時にあのさと言ってきて、二人の言葉が被ってしまう。 「…」 「……あ、裕司、先どうぞ」 「いや、宮子こそ」  そう言われ、そういえば裕司は旅行前に話したいことがある、とメッセージを送ってきていたのを思い出す。それを言って、だから先にどうぞ、と話せばじゃあ俺から、と頷いた。  …もしかして、雅が男性なことがバレてしまっていたのだろうか。でも今日の行動を見る限りそうは見えないけど…そう考えどきどきとしていると、裕司が話した言葉は意外性のある物だった。 「もしかして宮子って…アセクシャル、なのか?」  ん? 「アセク…?」  なんて言った、と首を傾げると裕司は訳を話し始めた。 「旅行に誘う前、同僚と飲みに行ったんだ。そいつらには…ごめんだけど宮子が嫌がってるって話はしてて。それで、同僚の一人、関田っていうんだけど。そいつが宮子はアセクシャルじゃないかって話してくれてさ」  裕司はポケットから携帯を出すと、アセクシャルを検索して見せてきた。  「アセクシャルとは、恋愛感情は抱いても性的欲求を抱かない、または抱くことが少ないセクシュアリティです」と書かれた検索ページに、宮子はなるほど、と頷いた。 「つまり、えっと。私がせ、セックス断りすぎて性的欲求を抱かない人間だと思った、ってこと…?」 「…違うのか?」 「…悩ませてごめんなさい、違います」  ぺこり、と頭を下げて言うと、裕司は携帯を胡座をかいた太ももの上に置いてはあぁと息を吐いた。それにびくっとすると、あ、ごめんと謝ってくる。 「もし宮子がアセクシャルだったらどうしようってずっと悩んでたんだ。宮子に迫るわけにはいかないだろ?宮子に嫌な思いはさせたくない。でも、俺も宮子とできるならシたい…だからせめて宮子の写真を撮らせてもらってどうにかできないかと考えてて。宮子は気持ち悪いって言った時はもちろんやめる気でいた」 「……」

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