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自分の気持ち 1
あち、と言いながら足を湯船に浸す。ゆっくりと体を浸からせれば、徐々に芯から温もっていくのを感じた。
その後ろで宮子、基、雅が体を洗っている。
きっと心の中でなんでこんなことに、と思っているのだろう。というか思っているに違いなかった。それはそうだろう。だって、今先ほど彼は自分が男だと告白したところなのだから。
最初は何かの冗談だと思った。だって今まで見てきた“宮子“は本物の女性と遜色ない見た目や言動をしていたのだから。
だが、そう言われれば今まで気にしていなかった若干の違和感にも納得することができた。女性よりよく食べること、絶対に体のラインが出る服は着てこないこと、バスケが得意なこと、身長が大きいこと、声が少し低いこと。全てに合点がいく。
「私、洗い終わったので出ますね…」
椅子に座ったままこちらを見る雅。メイクが取れた彼は、それでもやはり女性らしい顔立ちをしていた。
あまり体を見られたくないのか、雅はタオルを胸元まで持ち上げ体を隠している。…これで本当に男なのだろうか。
裕司はじっと彼を見て、湯船浸からないの、と聞いた。
「あ、はい、大丈夫です…」
「普段は浸かるんじゃないの」
「……」
さっきから視線が合わない。それにどもりがちだ。どうにもおかしいその様子に、問いただすべきか否かを考え、ふと頭をよぎった見解を口に出した。
「僕の裸気になるの?」
ぶんぶんぶん。彼が首を勢いよく横に振る。そういえば“宮子“も結構わかりやすかったことを思い出した。
騙されていたのは本当だが、さっき泣いていたのを見る限りわざと騙したわけではないようだ。
理由はまだわからないが…いや、実際はわかっていた。彼が裕司のことを好きだということは。ごめんなさい、ごめんなさい、となく彼を見てなにも思わなかったわけじゃない。
けれども今まで見てきた“宮子“の影が強すぎて、本当の彼が見えなかった。つまり、“宮子“のことは好きだが、“雅“が好きかはわからないというわけだ。でも不思議と"宮子"が男だとわかっても嫌悪感はなかった。
そんな思いは梅雨知らず、目の前の雅はどうするべきか迷っているようで、ちらり、と裕司の方を向いてはすぐ視線を逸らす。それを見ていると、少し揶揄いたくなった。
「一緒に入る?」
「っ?!」
先ほどより強く首を振る彼。面白い。
「もう出ます!」
そう言って立ち上がる彼を引き止めるように手首を掴んだ。…確かに、女性にしては筋肉質だ。一方で触られた彼はきゃっと声を出して固まった。その様子は実に女性らしい。
「あ、あの、離してください相良さん…」
「もう裕司って呼ばないの?」
「ゆ…」
風呂のせいか、それとも別の理由のせいか。雅は顔を赤くして首を振った。
「もう、呼べません…」
「僕が呼んでって言っても?」
「……………な、なんで」
目を白黒させて戸惑う雅。なぜそんなこと言うのか、と顔が物語っている。
これ以上揶揄うのは可哀想だ。大人しく出ることにしよう、と掴んでいた手を離す。
「ほら、僕出るから風呂入りなよ」
「…ありがとう、ございます」
裕司は風呂から出て洗い場に座った。雅は恐る恐る、といった感じで裕司から離れると、先ほどの裕司と同じようにあちっと言いながら湯船に浸かった。
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