32 / 63

たとえ君がなんであろうと 3

 水族館には一時間程度で着き、あまり気まずさを感じることなく車から降りることができた。 「運転ありがとうございます」  お礼を言えば裕司はどういたしましてと返してくる。  駐車場から移動して水族館の方に移動すれば、すでに開館しているために出入り口は人で溢れ返っていた。裕司の後ろをついていく形で歩くと、裕司はチケット販売機の近くで一旦止まる。それから携帯を取り出してなにかを操作し始めた。 「チケットはこれ。写真送るからそれで入って」  ピコン、という音と共に裕司からメッセージが来た。開いてみればQRコードのスクリーンショットが送られてきている。その前に送られてきている無邪気な会話も見えて、少し悲しくなった。  『色々観光地あるね!どこに行くか迷う!』  『とりあえず伊勢神宮は決定だな。一番有名だし』  『行くの楽しみだね!』  雅があんな話をしなければ、男じゃなければ、今ごろ二人はこの会話のように楽しく観光をし最後まで気分よく帰っていただろう。でも何度も言うが雅は男で、女になるつもりは一切ない。いつかは話さなければならないことだった。それが少し早まっただけ。ただ、それだけ。 「どうかした?」  携帯をじっと眺めていたせいで裕司に不審がられてしまう。雅は慌ててなんでもないと言って首を振り、入り口を指差した。 「早く行きましょう。ここまできたら全部楽しまなきゃ!」  最後のデートなんだから、と雅は片腕を自分を奮起させるように高らかに上げた。でも裕司がその腕を自分の腕を使ってそっと下ろしてきた。恥ずかしかったのかななんて思っていると、雅の下ろした手に裕司が手を重ねてきた。ぶわっと顔が赤くなる。 「えっな、なんっ」 「離れたら困るから」  そう言って裕司は手を繋いだまま入り口に普通に歩いて行ってしまう。雅はその手を振り払うこともできずたじたじしながら着いて行った。 「可愛い彼女さんですね!いってらしゃい!」  入り口で声をかけられさらに顔が赤くなる。そう、今の雅は完全に裕司の彼女なのだ。楽しまなきゃという気持ちと裕司が嫌がるかもしれないという気持ちがせめぎ合う。しかしここまできたら…もうヤケだ!雅は一度裕司の手から離れると振り返る裕司の腕に自分の腕を絡ませた。  いつもデートの時はこうして行動していたから…。 「ダメ、ですか」  上目遣い気味で裕司を見る。裕司はなにも言わず、ただぽん、と雅の頭を優しく触ってなにも言わないでくれた。好きにしたらいいと言われたように感じ雅はほっとする。

ともだちにシェアしよう!