35 / 63
可愛い彼 1
祐司と雅が旅行に行ってから1ヶ月が経った頃。
この間の旅行の話を聞かせろと関田と石塚に言われ、全員が丁度残業もなく帰れる時間の時に家で飲むことになった。
コンビニとスーパーをハシゴしツマミをいくつか調達してから家に帰る。
「よーう!邪魔するぜ!」
「お邪魔します」
部屋の鍵を開けさきに祐司が部屋に入ると、後から荒っぽい関田と大人しめの石塚が入ってきた。二人はリビングに置いてあるローテーブルの前に座ると、早速袋からツマミと酒を取りだして始める。祐司は適当にキッチンから皿と箸を取りリビングに戻った。
「じゃあとりあえず、かんぱーい」
全員が手にビールを持ち石塚が乾杯の音頭を取りコン、と缶と缶を合わせた。ごくごくとビールを喉に流し込めばスッキリとした苦味が口の中に広がった。
最初は全員でなんでもない話をしながらツマミを摘んで楽しく飲んでいたが、途中で関田がニヤリとし、話が始まった。
「で、どうだったんだよ。りょ、こ、う」
「あー…」
どこから話せばいいのか。
とりあえず祐司は初日の"宮子"の服が可愛かったこと、伊勢神宮で"宮子"が大凶を引いたことを話した。初日のあの服は今思い出しても本当に可愛い。
すると石塚がはは、と笑って祐司の肩を叩いてきた。石塚は少し酒癖が悪い。
「そーゆーこと聞いてんじゃねえの。分かってんだろ」
「アセクシャル云々の話だろ。分かってるよ」
祐司はぽつぽつ、と二人に雅とどういう話をしたのか話し出した。
「まず、みや…宮子は、アセクシャルじゃなかったよ」
「へえ、まずそれは良かったなって言うべき?」
「言うべき、なのかな」
「なのかなってなんだよ。一応性的欲求は安倍さんにもあるってことだろ。いつかは出来んじゃん、良かったな」
「……それよりも厄介な問題かもしれない」
二人が祐司の含みのある言葉に意味がわからず顔を見合わせる。
「どうした?」
「宮子は…雅だった」
「え、どゆこと?安倍宮子って本名じゃなかったん?」
「いや…宮子は安倍雅って男性だったんだ」
静かになるリビング。壁にかけられた振り子時計のカチカチという音がよく聞こえる。
途端、二人が同時に立ち上がってはああああ?!と叫んだ。
「おと、おと、おとこぉ?!」
「は?嘘だよな、流石に嘘だよな、相良!」
「……本当」
そういう反応になるよなー、と祐司は仰け反って後ろに手をつき二人を見る。祐司だって初めて聞いた時は叫びそうになった。だが泣く雅を見てそんな気にはなれなかった。
ちなみに雅は特に隠している事じゃないからと性別のことから祖母の話まで話すことを許可してくれている。
ともだちにシェアしよう!

