36 / 63
可愛い彼 2
「ま、まじかぁ…あの麗しさで男って…メイクってこえー」
「それで…?その後は…?」
「泣きながらごめんなさいごめんなさいって」
「うわ…あの顔に泣かれたら俺許しちゃう」
関田が言うと、石塚も雅の顔を思い出しているらしく、頷いていた。
「それから?」
「一緒に風呂入った」
「なんでだよ」
「なんでだよ」
二人の声がハモる。確かにそう言われても仕方ない。でも祐司はちゃんと雅が男だと確認したかったのだ。そうやって言い訳すれば、まあそうだよなと関田と石塚が納得してくれる。
一旦話をおちつけるためにセセリの焼き鳥串をパックから取りだし口に含む。関田も同じように食べ、石塚はビールの二本目を開けた。
少しの沈黙の後、関田がなあ、じゃあ別れたの?って聞いてくる。
「いや、結婚しようって言った」
「なんでだよ!!」
「なんでだよ!」
今日の二人は仲がいいのかよくハモる。祐司がビールを煽ると、石塚が飲んでねぇで話せと祐司のビールを取り上げてしまった。
「いや…僕、宮子が雅だって、男だって告白してきたあと考えたんだけど…意外と嫌悪感無いなってことに気づいて」
「簡単に言うと?」
「抱ける」
「ほえー…お前ってそっち側だったんだ」
関田が驚いた顔で祐司を見る。祐司も意外だったが、雅に嫌悪感はなかったのだ。今まで女性と付き合って来たことがないせいか自分の性嗜好なんて考えてこなかった。
「どっちかは正直わからないけど。どっちにしろ、雅と別れようとは思わなくて…ただ、それをなかなか言い出せなくて雅を泣かせた」
「女泣かせるなんて祐司くんったらもう…あ、男か」
「そう、男」
「男に見えねえよなぁ…」
石塚が再びそう呟く。
実際、祐司は未だにちゃんと雅が男なのかと疑う時が多々あった。
『この格好になれちゃってて…今更男として出るのがなんか恥ずかしくて』
そう言う雅がデートの時は必ず女装してきてくる為だ。いつ見ても雅は美しく、男になど全く見えない。
祐司はポケットから携帯を取り出すと、二人にとある写真を見せた。
「これ、雅」
「女の子じゃん…」
写真は祐司が自撮りして欲しいと言って送ってもらったものだ。普段から自撮りなどしない雅は難しい、と言いつつもしっかり写真を撮って送ってくれた。
その写真の雅は胸元の空いた服を着ていて、男には見えない。
「胸どうなってんの?」
「シリコンパッドの上にBカップのブラ付けてるんだって」
「へええー努力がすごいねぇ」
関田がビールを煽り、中身がないことに気づいたのか新しいものを袋から取り出すとプルタブを起こして飲んだ。
「でも話聞く限りわざと騙してたって感じじゃないよな。なにか女装してる理由あるのか?」
「女の子になりたいとか?」
関田に聞かれ首を振る。
「雅、両親が亡くなってて祖父母に育てられてるんだけど…その祖母がいわゆる毒祖母ってやつでさ。雅を女の子として強制的に生活させてたらしい。家出た今でも監視が続いてて女の格好するしかないんだって」
雅の家に行った時、たまたま祖母からの電話に出る彼を見た。雅はひどく無表情で、ただ、はい、はい、大丈夫です、私は女です、と繰り返し言わされていた。電話が終わった瞬間雅は祐司の顔を見て泣き始め、祐司は慰めることに徹していた。
そんな話もすれば二人は気の毒そうな顔をし、そっか、とだけ言った。
「それで、なんでそこで結婚話になったんだよ」
「確かに計画したのは俺らだけどさ」
そう、結婚云々の話は二人が言ってきたものだ。
ともだちにシェアしよう!

