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可愛い彼 3
『どうせ旅行行くなら、自分が本気だって伝えてこいよ!』
そう言って祐司に結婚指輪を持たせたのは二人の案だった。祐司は貯金をはたいてダイヤの結婚指輪を買い、プロポーズする気であの旅行に挑んでいた。
本当は水族館でする気はなかった。帰りの夜景の綺麗な山をリサーチ済みだったためそこでプロポーズする予定だったのだ。だが、あの場で言ってよかったと今は思っている。
「水族館で雅がナンパされてさ…しかも女装して気持ち悪いとか言われたらしくて」
「うわ、ひっでぇなそりゃ…今どき多様性の時代だろうに」
「それで…なんか、プッツンしちゃって。雅を、誰よりも、誰からも守りたい。僕が必ずそばにいて一緒に過ごしていきたい…そんな気持ち、好き以外なんでもないだろ。だから雅の性別なんて気にしないって言って、そのままプロポーズした」
「で?受け取って貰えたの?
」
「泣きながらだけど、うん。受け取って貰えた」
よかったじゃねーか!!と関田が祐司の肩を叩く。痛いが、その痛みがより一層プロポーズを受け取って貰えたという現実を見せてくれた。
石塚も笑って祐司の肩を組み、祐司にカンパーイ!とビールを高々と上げる。
「いつか結婚できるといーな!!」
「ああ、そうだな」
祐司も笑って、砂ずりを1つ口に入れた。
だが、問題がひとつあった。はあ、と祐司がため息を着くと、すぐに関田が発見しどーしたーと聞いてくれた。
「それが…雅が男だってわかってからその、夜の誘い方がわからなくて」
「なんだよそれ。今までみたいにやさしーく押し倒せばいいじゃん」
「いや…ほら、男は準備がいるって書いてあったから」
女みたいにソコが濡れない男は準備が必要だと言う。だからこそその場ですぐに誘ってすぐできる、なんてことは出来ないのだ。もし誘うなら、〇〇日ヤろう、と言わなければならない。それが裕司にとっても雅にとってもネックであった。
「やりたくない、とかはないんだな」
「ない。むしろ我慢してる」
「性に積極的なのはいいけど、ここまでまた問題が出るとはなぁ」
「でもここまできたら恥も外聞も取り去ってやんないとだろ。安倍さん、多分自分からは恥ずかしくて絶対言わねぇぞ」
そうだよなぁと頷く。雅はきっと自分からは言い出さない。そもそも雅はアセクシャルではないとは言っていたものの、シたいと思ってくれているのかどうかすらわからない。
「雅、性欲なさそー…」
「え。そうなんだ?つか聞いてみりゃいいじゃん」
その時裕司たちは酔っていた。すでにビールは各々三缶は開けておりツマミもほとんどない状態だった、と言い訳しておく。だからこの後あのような行動を取ってしまったのだと。
「聞いてみる…?」
「そう。電話で」
「そっかその手があったかぁ」
裕司は携帯を手に取るとメッセージアプリから雅を選択すると電話ボタンを躊躇なく押した。数秒のコールの後、可愛らしい声ではい、と雅が電話に出る。
耳元に当ててそのまま電話しようとすると関田が携帯をビール同様取り上げて、スピーカーにしテーブルの上に置いた。
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