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意地悪なあの人 1

 なに聞いてんのよもう!と怒鳴りたい気持ちをどうにか堪えたが、雅は少しの間立ち上がることができなくなってしまった。  今日は紗枝と伊藤と共に夜ご飯を食べにきている。本当は今日じゃなかったのだが、伊藤がその日予定が入ってしまったため今日の食事会が早まったのだ。もちろん内容は一ヶ月前の旅行について。初日の服は二人の自信作だったらしく、とにかく感想が聞きたいそうだった。  雅も話したいことがあった。裕司と話して、自分が男として生きることを望んでいること、家族のことを特に親しい友達には話した方が雅の心身共にいいのではないかという話になった。だから今日は報告会+謝罪会だった。なにか言われて友達を辞められてしまうかもしれないけど、二人には勇気をもらった。だかこそ話しておきたかった。  退社後、二人と待ち合わせし予約しているパスタ屋に向かう。十代の頃はパスタなんて腹にたまらないもの欲しくないと思っていたが、こうして女性社会で生きているとパスタもなかなか悪くないと思うようになった。 「寒いですねぇ」  そう言って手を擦り合わせる伊藤は、最近彼氏ができたと話していた。身長百八十㎝もある彼らしく、お姫様抱っこが楽しいだのという話を聞かせてくれる。とても良いことだ。  パスタ屋に着くと、予約していること、雅の名前を言って中に通してもらう。中は暖かく、良い匂いがした。  とにかくお腹が空いているため三人は顔を突き合わせてメニューを見てパスタを頼むことにする。結果、雅はウニとサーモンのクリームパスタ、伊藤はカルボナーラ、紗枝はきのこのパスタを選んだ。  一度はみんなニンニクの効いたペペロンチーノを選ぼうと考えたが、今日の帰りの電車事情と明日の胃の自状況を考慮しやめた。  パスタが着くと最初はみんなその美味しさに感動しその話ばかりしていたが、ふと会話が途切れた瞬間、雅がフォークとスプーンを置いてごめん二人とも、と居住いを正す。 「え、どうしたの改まって。もしかして…旅行うまくいかなかった?」 「ううん、旅行は正直大成功。初日の服も褒めてもらえた」 「あー!よかった!それほんと気になってたんだよねぇ」  紗枝が口に水を含む。 「でもなんかもう色々あってプロポーズまでされちゃった」 「んっ?!」 「ぶっ」  伊藤が食べていたパスタを吹き出しかける。隣の紗枝も水を吹き出しかけタオルで口を押さえた。

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