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私の失敗 1

 げほごほと咳が出て、雅はそれを抑え込むかのように布団の中で小さく丸まった。  病院に行ったらインフルエンザだと診断された。そろそろワクチン接種の時期だなーなんて思ってたらまさか職場で最初にかかることになるなんて。  でもその職場がかかる原因だったかもしれない、なんて雅は思う。最近仕事をするのにストレスを感じることが多々あった。理由は…どこからか祐司にプロポーズされたという話が広まってしまったためである。その話は気づけば雅のいる部署を飛び出して他部署にまで広まっていた。おめでとうと言われるようになり、初めこそありがとうございますなんて言っていたが、籍はいつ入れるの?なんて聞かれるようになり、都度自分は男であることを説明しなければならずその度に驚かれる、なんてことが日常と化していった。  意外にもほとんどの人が雅が男だと知っても―性転換する気がないと知っても―驚かず、ただそうなんだ、でもそうやって好いてくれる人がいるなんていい事だねなんて言ってくれる。確かにそれはそうなんだけど…まるで男の自分が男に好かれることなんて珍しいことなんだから逃すなよと言われてる気分になって嫌だった。  そしてやはり下世話な人間というのはいるもので、夜はどうやってヤってるんだ、なんて不躾な質問をされる事もあった。他にも、なんでそこまで女の格好をして女みたいに生活してるのに女にならないんだ、とか、相手が可哀想だと思わない?と最初の伊藤のように嫌悪感を示す人も少なからずいた。  段々それがストレスになっていって、気づけば職場で一人マスクをしげほげほと咳をしていた。  初めに雅の異変に気づいたのは隣の席の紗枝だった。体がだるく火照っているのはきっと部署内の暖房が暑すぎるせいだ、とエアコンのせいにし、仕事をしてると、紗枝が顔を覗き込んでくる。紗枝は雅に大丈夫?と聞くとそっと首に手を当ててきた。 『あつ…!雅、熱あるよ!』 『え…そんな、はず…』  顔を上げると、ふらり、と頭がぐらつき体がデスクに倒れる。紗枝はきゃっと驚いてすぐに上司を呼び、雅を帰らせるよう説得した。上司も朝の段階で少しの違和感に気づいていたのかすぐに帰るよう雅に言いつけた。  その足で雅は病院に向かい、結果、インフルエンザとわかったわけである。雅は1週間の出勤停止を貰ってしまう。原因もなんとなくわかっていたため雅はゆっくり休むことにした。  ほんとに、どこから情報が漏れたのか。雅は検討もつかなかった。    出勤停止から3日目、雅は熱にうなされていた。そして最悪な夢を見た。祐司に旅行先で拒絶される夢である。 『やっぱり君とは付き合えない』 『僕は女性が好きなんだ』 『君は…気持ち悪い』  そんなことを言われて飛び起きる。雅は辺りを確認し自分の家だと分かるとすぐに部屋のタンスに飛びつき二段目を開いた。服の奥から引っ張り出したのは結婚指輪の箱で、あの時水族館で祐司が渡してくれたものだった。それを見て雅は安心し、その場に座り込む。 「祐司…」  あの日から、雅は祐司のことを相良さんと読んでいる。なんとなく気まずくて、祐司と呼べないのだ。メッセージも雅の方がどこかよそよそしく、敬語に戻ってしまっている。  それでも祐司は気にせず雅にメッセージをくれていて、ほんとうに優しいといつも雅は心から感謝していた。  でもここ3日、さすがに熱が出ている状態では考えることも難しく、祐司がなにかメッセージを送ってきてくれているのは知っていたが返せないままでいた。さすがにそろそろ返さないと、と雅はふらふらしながら充電器に刺しっぱなしの携帯を取った。かち、と電源ボタンを押すが電源がつかない。  あれ?と思ってコンセントを見ると、上ぬいぐるみが落ちていて充電器の線が抜けていることが判明した。いつから電池が切れているのかはわからないが、きっといまから充電しても10分は付かないだろう、と雅は諦めて携帯を放り出した。連絡しなかったら心配されることはわかっている、けど体が重たくて動けない。 雅は深くため息を着くと、のそのそとベッドに乗り再び眠りについた。  

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