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私の失敗 2
次に目を覚ましたのは息苦しさのせいだった。目を開けると既に部屋は薄暗い。冬は夜が来るのが早いため今何時なのかは分からなかった。
そういえば薬を飲んでいない。有難いことに日本にはインフルエンザの特効薬があり、それさえ吸っていれば症状は軽く済むのだ。
雅はどうにかこうにかベッドから起き上がり、何か食べなきゃと冷蔵庫を開いた。しかし中は空っぽで、そういえば昨日の昼に食べたうどんが3日前に買ってきた最後の食料だったことを思い出す。
―もうダメかも。
本気でそう考え、雅はぺたんとそのまま床に横になった。床の温度が冷たくて気持ちいいが、部屋は寒い。普段冬は時間設定をして暖房をつけているため切れしまっているようだった。だめ、ほんとにだめ。
頭が回らない。どうしたらいいんだっけ、ああそういえば祐司に返事しないと。でもあれ、携帯ってどうしたんだっけ。
だんだん頭がぼんやりしてきてうと、と眠りに入りかけた時。
ピンポーンと、インターホンが鳴った。眠りかけていた雅は飛び起き、は、はい、とかすれる声を捻り出した。ふらつく足元でどうにか玄関を開けると、そこにいたのは―マスクをつけた祐司だった。
「ゆ、…じ…?」
祐司は手に袋を持ってはぁはぁと息を荒らげながらそこに立っていた。夢か現実か分からず、ぽかん、と口を開けていると祐司が雅の体をそっと抱きしめてきた。
「大丈夫か?」
「なんで、いるの?」
祐司はため息を着くと、とりあえず部屋入るよと言って雅を支えたまま部屋に入ってきた。そのまま雅をべっどに寝かすと両手に持っていた袋の中身を冷蔵庫に入れ始める。
これ、夢?現実?
未だにわからないまま祐司をぼーっと眺めていると、冷蔵庫に詰め終えたのか彼が雅の方に来てくれた。
「熱は?」
「わかんな、い」
「ん…」
祐司はそっと雅の額に手を置くと、熱いな…と顔を顰める。そして持ってきていたもうひとつの袋から冷えピタを出すと箱から1枚取りだし雅の額に貼った。
ほっとする気持ちよさに、雅は目を細める。体温計は、と聞かれたけど数ヶ月前から行方不明だったため首を振ってないことを伝えた。
もう一度雅をベッドに寝かせると、裕司がようやく一呼吸おく。
「なんで連絡しなかった」
「あ…えっと、携帯の電池切れてて」
「違う、初日からだよ。言ってくれれば看病しに来たのに」
「だって、迷惑…」
それに移ってしまうかもしれない。そう言い訳すれば祐司は何度目かわからないため息をついた。
「僕、仮にも君の彼氏なんだけど」
―仮にも君の彼氏なんだけど
その言葉に余計に頬が熱くなり、そしてそのことによって自分が化粧をしてないことを思い出した。雅は腕を上げ顔を隠すと見ないで…と小声で言う。
「どうした?」
「化粧、してないの…」
「病人が化粧してたらびっくりするよ。気にしなくていい」
「ゆ…相良さんが気にしなくても私が気にするんです」
なるべく祐司から顔を隠すように顔を覆っていると、その腕を引っ張られ顔を見られてしまう。
「な、なにっ」
「祐司」
「え」
「そろそろ、祐司って呼んで欲しいんだけど。敬語も取って…前みたいに話してよ」
やっぱり気にしていたのか、とは言えない。雅だっていつかは言われるだろうなとは思っていた。でも、いつ変えるべきか悩んでいたのだ。
「ゆう、じ…」
「うん」
「……来てくれて、ありがとう」
本当は来てくれてすごく嬉しかった。顔を見た瞬間泣きそうになった。いや、実は今目が潤んできていて本気で危ない。一粒ころんと涙がこぼれ落ちると、そのまま涙がついで溢れてきた。
「ごめ、…」
謝ろうとした雅を、祐司がそっと抱き寄せる。
「謝らなくていい。熱が出てる時は心細いよな」
そのまま優しく頭を撫でてもらうと涙がどんどん溢れてきて止まない。でも泣いている理由を誤解されてしまったから小声で違うのと返した。
「祐司が来てくれて、嬉しいの」
「そっか。それなら来てよかったよ」
そうして祐司はまた優しく頭を撫でてくれた。
それから祐司はお粥を作り起きしてくれて帰って行った。また明日も来る、と言って。
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