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私の失敗 3

 それから祐司は雅が完治するまで毎日雅の家に通ってくれた。雅は祐司が最初に来た日から2日後には熱も出なくなりすっかり気分も落ち着いた。  そして祐司になんとなくインフルエンザにかかった理由を話した時、彼はとても驚いてこっちも言われているのだと話してくれた。どうやら雅の会社でも祐司の会社でもどこからか情報が漏れて話が広まってしまっているらしい。祐司は調べてみる、と言ってその日は帰って行った。  そして祐司はとある事の顛末を話してくれた。  どうやら今回のプロポーズの件、祐司の友達が他の人にチラッと話してしまったようである。 「ほんとに軽く…友達がプロポーズしたんだ、なんて話を飲み会でしたらしくて。そしたらそこで俺の名前が出たみたいで、そこから尾ひれが付いて相良さんがプロポーズした、なんて話になって。付き合ってるのは誰だ、確か取引先の安倍さんって聞いたことがある、じゃあそうなんだ…ってだんだん広まったらしくて。ほんとごめん,、こっちの落ち度だ」  祐司がベッドに座った雅に頭を下げる。この頃には雅はほとんど完治していて起き上がっても大丈夫になっていた。 「そうだったんだ…」 「雅も結構酷いこと言われたんじゃないか?大丈夫だったか?」 「雅もってことは、祐司…も?」 「まあ、下世話な話もあったな」 「多分同じこと聞かれてると思う…」  視線が逸らされる。"そういう話"は、恥ずかしい。未だに二人はそういう話をしようたした試しがない。この間酔った裕司が雅に聞いてきて以来だった。  雅がふい、と顔を背けると、裕司が隣に座ってくる。そのままそっと手を繋いできた。 「雅、いいたいことがある」 「はっはい!」  裕司のいいたいことがある、は本当に心臓に悪い。雅は裕司が見てきているのを認識しつつ敢えてスルーしていると、裕司が横から雅を抱きしめてきた。 「っ」 「どうか君を、抱かせてほしい」  心臓がばくばくと激しく音を立てる。そんな、そんな率直に言われるなんて思っていなかった雅はどうしていいかわからず固まってしまった。  雅が男だとわかった今、二人を隔てるものはなにもない。それはセックスにおいてもだった。 「返事は…」  未だ固まったままの雅に、少し体を離して裕司が返事を求める。水族館で大勢に祝福された時より恥ずかしい感覚に、雅は震えつつも小声ではい、と返事した。 「ありがとう」  裕司がもう一度雅を抱きしめた。心臓が爆発してしまう、と雅は身じろぎして裕司から離れようとした。  ―目が、合う。  目に映る裕司も少し顔が赤かった。そっか、裕司も恥ずかしいんだ。そう安心していると、雅と自分のマスクをするりと外し、顔を斜めにした裕司が雅に近づいてきた。 「…」 「……」 「…雅?」  キスされそうになったその時、雅は咄嗟に両手で唇を塞いでいた。裕司が眉を顰めて非難するような目を雅に向ける。 「ま、まだ、まだ完治したわけじゃないから!!」 「……」 「ご、ごめんなさい…」  あまりにも裕司がじっと雅を見つめてくるため思わず謝ると、優がそっと雅を離して立ち上がった。 「君がそういう気なら…」 「えあの」 「当日、楽しみにしてるといい」  裕司は振り向きざまににやり、と見たこともない妖艶な笑みを浮かべて部屋を出て行った。続けざまにトイレの開く音が聞こえる。  その後裕司は何事もなかったかのように帰って行ったが、家に着いただろう頃にメッセージが一つ来た。  『君を抱くときは今日みたいに素の姿を見せて欲しい』  今日みたいな、とは、化粧をしていない姿のことだろう。でもそれを見て雅は不安になった。  まだ裕司には自分が男だという証を見せたことがない。確かに一緒に風呂には入ったがほとんど体を見せることをしなかったし、インフルエンザにかかって化粧ができていない間はほとんどマスクをつけ生活してきた。  ―もし本当にするとなったとき、裕司は本当に男の自分を抱けるのだろうか。  雅はそんな不安に震え、一人で泣いてしまった。

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