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俺の落ち度 3
それから一週間後。
「…」
「それってほんとすごいですね!」
「あはは…」
飲み会はそれなりの人数が出席し、かなりの賑わいを見せていた。裕司と雅を除いて。
そもそも雅はこういう飲み会の席が得意ではない。今回はこないかもしんれいなと裕司は考えていたのだが、予想外にも彼は来た。来た瞬間裕司はすぐにでも話しかけに行きたかったが上司の接待をしており―自慢話だ―、行くことができなかった。そして席に戻るとなぜか隣に森が座っており、話しかけられてしまい話すことになってしまう。
森はなにかを話す度になぜか裕司を持ち上げては褒め散らかしてくる。最初こそは気分がよかったものの、途中から違和感を感じ始め目線をうろつかせるようになった。石塚と目が合ったが、肩を竦ませほかの人との会話に戻ってしまう。
「私明日から裕司さんのお昼ごはん作ってきていいですか?」
「悪いですよそんな」
「遠慮せず~」
こんな感じで話しては肩を寄せて胸元をちらりと見せてくる。正直心揺さぶられないわけではない。ただ、思ってしまうのだ。雅の方が綺麗な胸元をしているな、とか、手は雅の方が白いなとか、そういう。
その時点で裕司は自分がゲイではなくただ単に雅が好きなだけなんだと感じた。
その雅だが…先ほどから白い視線を裕司に送ってきていることはわかっている。対面の席で、わざとらしくしなだれかかられる裕司をずっと見続けているのだ、面白くはないだろう。しかも彼女は雅が気にしている”女性”だ。
雅の詰めた視線に耐えられず、そろそろ離れてくださいと森に言おうとした時。
「おおっ!安倍ちゃんいいね~」
雅がその場にあったビールのグラスを掴むと、立ち上がり、腰に手を当てて一気に飲み干したのだ。あの、酒の飲めない雅が。
「ぷはっ」
雅は口からグラスを離すと店員さんを大声で呼び、すみませんもう一杯、と注文した。
「み、雅…?」
裕司が思わず声をかけると、森が小さな拍手をした。
「安倍さん、男らしい~」
「ちょっと、森さん」
一番雅が気にしているだろうことを堂々と言う森をさすがに制し、雅の元に行く。雅はすでに顔を赤くし体を傾てけていた。しかしそれでも彼はビールを持ってきた店員から品を受け取るとそれを口にした。
「雅!」
「裕司…」
ビールを三口ほど飲むと、雅は裕司にようやく気付いたのか声をかけてくる。
そしてそのまま裕司に抱き着くと、唇を合わせてきた。
一瞬の静寂の後、歓声が上がる。
「きゃー!キス!」
「そういやお前プロポーズしたんだって?!」
「婚約したってことっ?」
「まだ指輪はめてねぇじゃーん」
「結婚式はいつ?」
「安倍さんきれいだから絶対ウェディングドレス似合うよー!」
「裕司お前よくやったな!」
「でも籍いれられないでしょ、どうするの?」
雅を男と知らない者、知っている者、いろんな人がざわめき立って二人をもみくちゃにする。事態の収拾がつかずどうするべきかと騒音の中悩んでいると、雅が裕司の首に腕をかけ体重をかけてきた。
「ゆーじ、結婚式するの?」
「え、それはまだかんがえてな…」
「さっきあの人の抱き着かれて嬉しそうだったよね」
「いや、何の話…」
「あ、指輪くれるの?」
「……」
雅の話は飛び飛びで本当に酔っていることがわかる。このままここにいさせるわけにはいかない。というかこのまま置いてるとさらに暴走しそうだったため大きめの声で誰かしらに伝わるように雅をタクシーに乗せることを伝えた。
するとざわめきの中から以前雅のインフルエンザを教えてくれた彼女がでてきた。確か名前は稲垣さん。
「雅、お酒飲んじゃったの?!」
驚いた風に言う彼女は雅をゆっくり立たせると裕司の肩に手を回させてくれた。
「すみませんありがとうございます」
「あ、いえ。相良さんですよね。この間のインフルエンザの件ありがとうございました」
礼を言うと逆に礼を返されてしまう。雅はこの間(かん)ずっとなにかを喋り続けていた。
外に連れ出し待合の椅子に座らせる。
「なにがあったんですか?私接待してて見れてなくて」
「えっと、雅が急にビール煽っちゃって…多分僕が女性にしなだれかかられてたせいだと思うんですけど」
「…嫉妬ってことですか」
稲垣が微妙な顔をしながら雅を見る。彼女は雅の友達のようだし、よくない顔をされるのはなんとなくわかっていた。でも言わずには事は語れない。
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