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俺の落ち度 4
しかし稲垣が雅のそばに座って聞いたのは意外なことだった。
「みーやーびー…相良さんのことそんな好きなのー?」
「…き」
「なにて?」
「好きだもん!」
雅はばっと顔を上げて泣きはらした目で裕司を見てきた。化粧が落ちることをなによりも嫌う雅がこんな風に荒れるなんて…。さっさと森から離れればよかったと今更後悔する。
裕司も座り込み、雅の頬を撫でる。
「ごめん雅」
「ゆーじ、わるくない…ごめんなさい」
酔いが醒めてきたのか雅が謝ってくる。雅は悪くないという意味を込めてそっと抱き寄せれば雅は大人しく体を預けてきた。
それから少ししてタクシーが来たため雅を乗せる。けれども雅がスーツを離してくれない。雅、と咎めるように言えば彼は小さく震えて、上目遣いで裕司を見てきた。
「離れたくない…」
森の上目遣いにはなんの感情も持たなかったのに、雅の上目遣いに裕司は弱く――
「大丈夫か雅」
「うん…」
結局裕司は雅を家まで送ることになった。幹事が先に帰るなんてもってのほかだったが、騒動を見ていた石塚と関田が後は任せろと言ってくれてそのまま帰ることができた。
タクシーで帰る頃には雅の酔いは完全に醒めてしまって何度も謝られた。その度裕司は気にしていないことを伝えた。
「裕司ありがとう、ごめんなさい」
リビングの電気をつけ雅の体をベッドに寝かせるとまた雅が謝ってくる。
「気にしないって言ってるだろ。ほら、もう寝た方がいい」
「ん…ほんと、ありがとう」
雅はシャツの胸元を少しくつろげると腕を目元にやり暗闇に入り込んだ。首元が酒のせいで赤く染まっており、色っぽい。その姿に少し、ほんの少しだけどきりとする。好きな人…彼氏の着崩した姿だ、欲情するなという方が無理なのだ。
このまま襲う前に帰ろう、と体を動かした時だった。
雅の肩に、細いひもが見えた。わかっていたはずだった。雅は常に女装をしていて胸だって作っていたということを。でもその時の裕司はどうかしていて、それがなんなのか確かめざるを得なった。
「雅」
「?なに…」
「その紐」
「紐…?」
頭だけ起き上がらせた雅は自分の体を見て、肩から見える紐に気づくと勢いよく開けた胸元を掴み隠した。赤い顔をした雅は潤む目でちらりと裕司を見る。
「み、見た…?」
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