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全部初めてで 1*
「み、見た?」
そう言った瞬間、立ち上がりかけていた裕司に押し倒された。両腕は裕司の手によって頭の横で押さえつけられている。
裕司に紐、と言われた時なんの話をしているのだろうと思った。自分の体を見て、自分が気づかぬうちに服をくつろげていたことに気づく。
そこから、ブラの肩紐が見えていたことも。
慌てて胸元のシャツをより合わせたもののすでに裕司はそれがなんなのかわかってしまったのか、雅を押し倒してきた。こうして押し倒されるのは、まだ雅が男だと言うことを告げずにいた映画館デートの時以来である。
「見せて」
「や、いや、」
首を振って抵抗する。さすがに下着…女物の下着をつけているのを見られるのは恥ずかしい。でも裕司は離れてくれなくて、そのままそっと雅の首元をさらに広げてきた。いやって言ってるのに!と暴れるも、力は同じ男のはずなのに裕司の方が強くて裕司を止められない。
ボタンが一つ一つ取り払われる。だめ、見られたくない。そんな思いも知らずに裕司は雅のシャツのボタンをすべて取り払ってしまった。
「…」
裕司の視線が、雅の胸元に刺さる。今日は何色のブラをつけてきていたっけ、なんて現実逃避をした。
裕司はこの姿を見てなにを思うのか。男なのに女物の下着をつけて気持ち悪いと思うだろうか。でもきっとそう思うなら女の格好をしている雅とはもう別れているだろう。じゃあどう感じるのか。雅は悟れない裕司の気持ちを思って唇を小さく噛んだ。
その唇に、裕司の唇がそっと触れてくる。
「雅」
「…」
「こっち見て」
突然の口づけに驚きつつも、裕司に言われて背けていた顔を裕司の方に向けた。もうなにを言われてもいいや、と考えながら彼の顔を見る。
彼は―ひどく興奮した顔をしていた。
「な…なんで、そんな顔、」
「えろいから」
「え、えろっ」
「男が女性ものの下着をつけていると笑いものになる、なんて話きいたことあるけど…全然そんなことないな」
裕司はネクタイを片手で解きながらさらに雅の胸元を広げてきた。恥ずかしさのあまり体をよじると、こら、と叱られる。
「見せて、ちゃんと」
「い、嫌…恥ずかしい」
「見せないと見えるところにキスマークつけるよ。何個も」
「なん、ひどいっ」
映画館デートに行った時につけられた一か所だって結構怪しまれて紗枝にいじられたのに。あれ以上につけようとするなんて、なんてひどい脅し文句だ。
雅が大人しくなると、裕司はさらに雅のシャツをスカートからシャツを引き出そうとする。そのため慌ててその手を押さえて止めさせた。今日は、パンツも女物だ。それがばれるのだけでも避けたい。
でもそれでなにかを察したのか裕司は雅の手を片手で頭の上でひとくくりにして抵抗できないようにしてしまった。
「あとなに隠してる?」
「な、なにも…」
「そうか。じゃあ全部脱がせようか」
「きょ、今日の裕司いじわるだ!」
にらみつけると、裕司がにやりと笑って雅の首元に顔を寄せてきた。なにされるんだろうと怯えていると、ずきっとした痛みが首筋に走った。なにしたの、と聞けば、嚙んだ、と平然な顔をして言われる。
その言葉に唖然としていると、裕司はそのまま空いている片手でスカートのファスナーをジーっという音を立てて開け始めた。さすがの雅もこの行動には驚いて身をよじって抵抗する。
「暴れちゃだめだって言ったろ」
「ゆ、裕司もしかして酔ってる?」
「あー…森さんに結構飲まされたからな」
森さん…。裕司の隣にいた女性の名前だろうか。名前を聞くと雅の中でちり、と嫉妬の火種が小さく燃えるのを感じた。そうだ、さっきまで裕司は女性に鼻の下を長くしていたのだ。持ち上げられてあんなににやにやして…噛まれるべきは裕司の方じゃないか、と雅は腹が立った。
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