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全部初めてで 5*

   そこからの記憶は朧げだ。裕司が腰を動かす度に気持ちが良くて喘いで、泣いて、よがって。セックスの間、裕司はずっと雅を抱きしめてくれていた。泣く雅をあやすように何度もキスをし優しく頭を撫でてくれた。  そうして気付かぬうちに寝てしまっていたようで、目が覚めれば体はすでに清められており裕司が隣で寝てくれている。雅の頭の下にはきちんと枕も敷かれていた。 「…」  裕司の顔をじっと見る。彼は雅の視線で起きることなく寝入っている。雅は布団を彼の肩まで引き上げると、すすすと自分は布団の奥に入っていった。  気持ち、よかった。昔なにかのきっかけで男同士のセックスについて調べた時、初めてで気持ちよくなるのは稀だって書いてて怯えていたのだ。でも実際はビックリするほど気持ちよくて、裕司も、その、かっこよくて―。 「〜〜!」  今更になって恥ずかしくなり、雅は音を立てないように下着と服を身につけベランダに出た。冬の外は寒いが、それよりも顔が火照っている。 「ひゃあぁ…」  タバコを握りしめ蹲る。恥ずかしい、あんなに喘いで…もしお隣さんに聞かれてたら生きていけない…。  落ち着けるためにタバコを1本取りだし火をつけ、強く吸う。久しぶりだからか少し噎せて、けほけほと咳をした。 「なにしてるの」  上から声が降ってくる。ばっと顔を上げれば裕司が呆れた顔でそこに立っていた。 「なん、で…寝て…」 「ベランダのドア開ける音で起きたよ」 「あ、ごめん…」 「それより、寒いんだから中で吸いなよ」  たしかに普段は中で吸っている。でもそれをいつ言ったっけ、と思い返すが言った記憶はない。すると表情からそれを読みとったのか、裕司が部屋に灰皿置きっぱだよと言った。 「あ……」  そういえば裕司が来る予定なんてなかったため片付けてなかったことに気づいた。 「ほら、部屋入って」 「でもタバコの煙」 「気にしないから」  腕を引っ張りあげられ部屋に入れられてしまう。  ローテーブルの上にはやはり灰皿が置かれて、雅は仕方なくそれの前に座ってタバコを吸った。  裕司が隣に座り、タバコを支える反対の手を握ってきた。 「……冷えてる」 「…ごめんなさい」  素直に謝って灰を落とせば、裕司がじっと雅を見てくる。なに?と聞けば、雅のタバコを吸う姿は卑猥だなと言ってきた。  思っきり噎せる。 「は、はぁ?!」 「普段見ないせいかな、なんかえろく感じる…」  どこにえろさ感じてんの!と怒り、雅はタバコを灰皿に押付け消した。まだ少し吸えたけど、今の言葉を言われて吸える人がいるなら見てみたいものだ。  頬を赤くしながらけほ、と一咳する。  それでも裕司はじっと雅を見つめてきていた。 「な、なんですか…」 「結婚式」 「え?」 「結婚式、いつにしようか」 「え、待って」 「指輪はごめん、指のサイズもあるし一緒に行こう」 「あ、う、うん?」 「あと、森さんとはなんの関係もないから」  そこまで言われて、ようやく酒の席で雅が言ったことだと気づいた。 「あの時は…ごめんなさい、酔ってて…」 「不安にさせてた僕が悪い。でもなんで急に酒を飲んだんだ?」  雅はゆっくり首を振った。あの時の自分はどうかしていて…酒を飲んだらすっきりするという言葉を頼りに酒を飲んでしまった。でも普段飲まない酒を一気に煽ったせいで意識は朦朧とし、すっきりするどころか余計に苛立ちが増してしまった。その結果、こんなことに。こんな、ことに。  ぼっと顔がまた赤くなる。 「雅?」 「裕司としちゃった…」  改めて認識してしまい、雅は俯いて顔を手で覆った。 「かわい…」  頭を撫でられ雅はさらに小さくなる。 「僕は、雅とできてうれしかったよ。雅は?」 「わた…俺も、うれしかった」  雅は俯くのをやめて顔を上げ裕司を見つめた。裕司は微笑んだ後、雅にこれまでにないほどやさしくキスをした。  次の日、首元に大きな絆創膏をつけた雅を紗枝がいじったのは言うまでもないだろう。  

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