56 / 63
家族 3
だいぶ悩んだが、二人で話し合った結果雅は当日ナチュラルメイクをして来た。服はスーツのパンツスタイルで、髪を短くしている彼は女性に見えた。ちゃんとこれにも訳がある。
裕司の家から実家は新幹線で1時間ほどの距離にある。朝の8時に駅で待ち合わせしたが、珍しく雅の方が先に来ていた。裕司が相変わらず30分前に着いている為、それより早く着いていることになる。
「おはよう、雅。早い…な……雅?」
ベンチに座っている雅はぎぎぎ、と音がなりそうな程機械的な動きで裕司を見上げる。顔が強ばっている。
「おはよう裕司…」
「おはよう…もしかして緊張、してる?」
「当たり前じゃん…」
よく見ると小刻みに震えているし、目の下にはクマができている。緊張で眠れなかったようだし、そのせいで早く来てしまったようだ。
「大丈夫だって。同性愛に反対のある両親じゃない…はずだから」
「はずだから?!」
雅の顔がさらに青くなる。今日の晴天な空の色と雅の青、どちらの方が濃いだろうか、と考えてしまうほどだ。
「まあ、どうにかなるよ」
「前に友達に聞いた時男の人ってすぐどうにかなるって言うって言ってたけど本当だったんだ…」
震える雅は下を向いてはあとため息をつく。君も男性だが、とはさすがに言えなかった。
無口になってしまった雅を後ろ手に新幹線乗り場に行く。最中に駅弁売り場があったため各々好きなものを買った。様々な県の有名料理が並ぶ中、雅は無言で京都名産の丹波牛の弁当を買っている。どうにかして緊張がほぐしてあげたかったが、その術を裕司は持っていなかった。
そうして二人は新幹線の中でも新幹線を降りてもほぼ無言で裕司の実家の前まで来た。可哀想なことに乗り換えの電車を降りてから雅はますます顔色が悪くなり、裕司の服の裾をギュッと握りしめている。旅行の時、男性だと明かした時の方がまだ顔色はよかった気がする程だ。
「雅…今日は帰ろうか?」
「体調が悪いわけじゃないから…大丈夫」
ただ緊張してるだけ、と雅が言う。人間緊張でこんなにも足取りが遅くなるのかと思うほどここまでの道のりの雅の足取りは重かった。
家の前に立ち、ここが実家だとよ雅に伝える。すると雅は深呼吸し、諦めがついたのかしゃんと背を伸ばした。
「大丈夫、なにかあったら僕が守るから」
「ありがとう」
雅はそっと裕司の服から手を離し、胸に手を置き再度深呼吸をした。雅が準備できたのを確認すると裕司はインターホンを押した。はい、という女性の声に裕司ですと声をかける。数秒して玄関のドアがガチャリと開いた。
「おにぃおかえり〜」
一年前会った時は髪が赤かったはずだが、今は青くなっている彼女は妹の紗奈だ。紗奈とは九つ年が離れており、彼女の一つ下、つまり裕司と八つ離れた弟がもう一人いる。裕司は三人兄弟だ。
事前情報として教えていた雅は玄関から出てきた紗奈を見て慌ててこんにちはと声をかけた。
「あ、ども…」
紗奈は頭を軽く下げ誰だ?と言う表情をしたあと、すぐにはっとした顔をして家にいるだろう家族におにぃが彼女連れてきたー!と大声で報告をする。紗奈はすぐに振り返ると雅に駆け寄ってきた。
「初めまして!私相良紗奈って言います!今大学生で…」
人懐っこい紗奈はすでに雅を気に入ったようで、雅の手を掴みぶんぶんと上下に振り回している。
ともだちにシェアしよう!

