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第22話
「わ、悪い。忘れてた」
「おまっ、殺す気か!? もうキスは禁止だ、禁止! おまえに付き合っていたらぼくの肺が壊れる!」
咳をしながら言ったが、また麻野がぼくの口を塞いだ。唇を舐め、啄ばむようにそれを繰り返す。鼻にかかったぼくの声があがると、麻野は唇を離した。
「これなら?」
自信ありげに麻野が言う。ぼくはは口元を拭った後、麻野を睨んだ。
「悪くはない‥‥が、例外はなしだ」
「はあっ?! 譲歩してやったほうだぞ!」
「キスごときでぎゃあぎゃあ言うなよ」
「それはおまえだろうが!」
麻野が苛立ったように言ってくる。
「以前麻野は雪弥さんのことをキス魔だと言ったが、麻野も十分キス魔だ」
ぼくがそう吐き捨てると、麻野はガシガシと頭を掻いた後、「めんどくせえ」と呟いた。ガチャガチャとベルトをくつろげる音がする。ぼくは一瞬間ぽかんとして、麻野を叩いた。
「馬鹿か!? 雪弥さんが寝てる真横でなにを血迷って‥‥!」
ぼくは慌てて麻野を非難したが、麻野はなにも言わずにぼくのズボンと下着を一気に下げ、ぐいっと足を上げた。
「なに考えてるんだ、昨日も散々いじくった挙句放置されたこっちの身にも‥‥!」
そこまで言って、ぼくははたと気付いた。なるほど、そういうことか。だから昨日は後ろだけをあれだけしつこくいじり倒したのか。イラッとして麻野を睨むと、麻野はニヤニヤと意地の悪い笑みを浮かべて、スウェットと下着をずらし、自身を取り出した。
「物足りなくて自分でしたろ?」
「はっ!? な、なにを、根拠にっ‥‥」
「俺を見る目が物欲しそうな目だったから」
言って、麻野はぼくの秘部に指を這わせる。ローションの代わりになるようなものはリビングにはない。まさかこのままやりはしないだろうと思っていると、麻野がなにかに手を伸ばした。はちみつだ。
「ちょ、馬鹿! いい加減にしろよ、麻野! はちみつプレイなんざAVのなかでだけのプレイだろうが、ぼくにそんな趣味はない!」
「ぎゃあぎゃあ喚くな。こんなところを雪弥に見られて恥ずかしい思いをするのはおまえだぞ」
「おっ、おまえがなにもしなけりゃ済む話だろうが! 離せ、ぼくは帰る!」
「なんだって? 昇天するまでイキまくりたい?」
「そ、そんなことは一言も言っていない!」
慌てて麻野をとめようとしたが、麻野はやめる気などない。ぼくの秘部にはちみつを垂らしてきた。冷たさに体がこわばる。麻野は短く笑って、ぼくの秘部に指を入れた。
「もう既にいい感じじゃん。かわいいやつ」
「っ、くそ。やめっ、きもち、わる、いっ」
「んー、やっぱしちょっと粘度が足りないか」
冷静に言いながら、麻野がはちみつをさらに増やしてくる。ねちゃねちゃと音を立てながらぼくの秘部をせせる麻野を睨むと、麻野はにやっと笑って、自身をぼくに埋めた。
「んっ、ふっ!」
麻野がいきなりぼくのいいところを突き上げた。ぼく自身が弾け、ぱたぱたと精液が落ちてくる。麻野から与えられる刺激がもどかしくて体をこわばらせると、ぼくの頭上で麻野がふうっと息を吐いた。
「締めんな」
言って、眉を潜める。ぼくは締め付けているつもりなどなかったが、麻野がぼくのいいところを突くたびに体がビクビク跳ねた。ふっふっと息に混じって声が漏れる。麻野は既にイッたぼく自身を下着越しに撫で、扱いた。
「うわっ、馬鹿!」
快感にじんじんするそこをいきなり触られて、ぼくは麻野を非難するが、麻野はぼくの自身を扱きながら腰をゆする。スプリングの利いたソファがギシギシと音を立てた。
ぼくは隣で寝ている雪弥さんが気になってしょうがなかった。もしかして起きているんじゃないかと思い、雪弥さんに視線をやる。さっき見たときからほとんど動いておらず、胸が規則正しく上下していた。ほんの少しホッとする。麻野はそうでなかったらしく、舌打ちをしたあと、入り口近くまで自身を抜きゆっくりとぼくに進入してきた。
「ふっ、んうっ」
まるで恐る恐る指圧をするかのようにぐぐっと押される感覚に、思わず声があがる。麻野はぺろりと唇を舐め、またぼくのいいところばかりを狙って動き始めた。
「っ! あ、あさ、のっ、もうだめっ!」
揺さぶられる振動のせいか、自分の声が裏返っている。吐く息に混じって抑えられない声が聞こえて、体中が赤くなっているのが自分でもわかる。ぼくは麻野の背中をバンバン叩いて、早く済ますよう促した。麻野が吐息交じりの唸り声を上げた後、ずるりとぼくから自身を抜き去る。やっと解放されるとホッとしたが、麻野はテーブルに置いてあったティッシュペーパーを数枚とると、なにやらごそごそと自身を拭き始めた。ちらりと床を見ると、個別包装のフィルムが見えた。いつの間にゴムを装着していたんだろう。手際のよさに最早空笑いしか出ない。麻野はゴムを外し、ぼくの足元に腰を下ろした。
「これなら、フェラしてくれるんだろ?」
麻野が言う。ぼくは麻野の腰をドンと蹴り上げたが、ここで麻野にごねられたら面倒くさいと判断し、ぼくは麻野に言われたとおり、床に腰を下ろし麻野自身を掴んだ。相変わらずでかい。ぼくがそれを頬張ると、麻野が笑ってぼくの頭に手を置いた。
「だいぶ俺のことがわかってきたね、集。俺がごねたら面倒だから、妥協したろ?」
くっくっと麻野が笑う。一字一句間違っていない。ぼくは腹の内が読まれたのが悔しくて、麻野を煽ることだけに徹した。
割れ目を舌で刺激すると麻野がピクリと震える。濡れた音を立てて麻野を吸い上げ、舌で麻野の張った部分を舐めまわす。ぼくはぷはっと息を大きく吸った。
「顎痛い?」
麻野が尋ねてくる。ぼくは麻野を少し睨んで、再開した。根元を手で扱きながら麻野への刺激を続けていると、麻野がぼくの上で唸り、ぼくの口の中に麻野が広がった。
「やっぱし器用だね、おまえ」
麻野が満足そうに笑う。ぼくは麻野の精液をティッシュに吐き出し、口元を拭った。麻野はぼくの頭をぽんぽんと叩いた後、衣服を整え、雪弥さんを見た。
雪弥さんは相変わらず規則正しい寝息を立てている。それを見て麻野は舌打ちをした。
「くそっ、狸寝入りじゃねえのかよ」
「……は?」
言っている意味がわからないとぼくが呟くと、麻野はガシガシと頭を掻いて、雪弥さんの足を蹴った。
「雪弥、いつまでも寝てんじゃねえよ、起きろ!」
なんの反応もない雪弥さんを、麻野が立て続けに蹴る。ぼくが慌てて止めに入った頃、雪弥さんはぐしぐしと子供みたいに目を擦って、麻野を睨んだ。
「んん~っ、邪魔‥‥」
麻野の足をべしっとたたき、雪弥さんがごろりと向きを変える。完全に眠っていたらしく、口元に涎が垂れているのが見えた。
「うわっ、きたね! こら雪弥、明が怒るから寝るなら部屋で寝ろよ! 熟睡すんな!」
雪弥さんを揺すりながら麻野が言う。けれど雪弥さんはそのまま寝息を立て始めた。どこまでマイペースなんだとぼくは苦笑した。
「すごいな、これだけ揺すられても起きないなんて、さすがだ」
ぼくが呟くと、麻野はええいと苛立ったように言って、雪弥さんの体をソファに肩から叩き付けた。
「肝心なときにマジ寝しやがって」
「‥‥ぼくは眠っていてもらってホッとしたよ」
麻野はそうぼやくぼくを見て、やや不満そうだ。どうやらなにかが引っかかるらしい。雪弥さんにブランケットを掛けなおして、乱れたままだったズボンを整えていたとき、麻野は顎に手を当てて言った。
「本当に俺のことが好きなんだったら、こんなところを見せたら嫉妬して混ざってくるかなーって思ったんだけど」
マジ寝するとは誤算だった。独り言のように言った麻野を横目に、ぼくは「馬鹿か」と一蹴した。
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