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02-5.大公の暴走※
「そしたら、アタシと結婚してくれるでしょう?」
ダリアは希望を口にする。
その言葉に嘘はない。すべてダリアの本音だった。
「……バカだな」
アーサーは呆れたように言った。
それはダリアに対してでもあり、昨日、カイルの言葉を妄想だと片付けた自分自身に対してもだった。昨夜は同伴はしてくれたものの、触らせてくれなかった。カイルは信じてもらえるまで添い寝をするだけだと意地を張っていた。
その結果、アーサーは不機嫌だった。
そして、目の前で番を害されて怒りを覚えた。
目の前で期待に満ちた表情をしているダリアを斬り殺してしまいそうな強い衝動に駆られる。これが番を持つアルファの習性の一つなのだろう。
「すぐにこの女を解雇しろ!」
アーサーは怒りに満ちていた。
目の前で番を害されたことにより、理性はなくなっていた。
「かしこまりました」
近くにいた執事が駆け寄ってきた。
ダリアを取り押さえ、すぐにアーサーと距離をとらせる。
「すぐに片付けいたします」
執事の言葉はアーサーの耳に入らなかった。
余裕がなかったのだ。
「部屋にこもる」
アーサーは扉を閉めた。
それから、大きなため息を零した。
「……怒っているのですか?」
カイルはシャワー室から出てきた。
綺麗になってさっぱりしたのか。泥水をかけられたことを怒っていない。
「怒っている」
アーサーはカイルを抱きしめた。
「これほどまでに酷いとは思わなかった」
アーサーは初めて強い怒りを感じた。
番を害されることの意味を身をもって知ったのだ。
「アーサー」
カイルはアーサーの名を優しく呼ぶ。
愛おしくてしかたがなかった。
「俺は大丈夫ですよ。オメガになることを選んだ時点で覚悟はしていましたから」
「それでも許されない」
「ええ、許されないことです。解雇を宣言したのは大公としても、番としても、正しいことだと思います」
カイルはアーサーを慰めるように言った。
……アルファとしての性質だろう。
ベータに近いとはいえ、アルファはアルファだ。番を守ろうとする性質が変わるわけがない。
……アーサーが怒ったのは初めて見た。
近衛騎士団の騎士団長としての姿は数えきれないほどに見てきた。それでも、怒っている姿はあまり見たことがない。
どちらかといえば、温厚な性格だった。
怒ったとしても静かに注意をする程度だった。
それなのに、シャワー室まで響くほどの大声で怒ったのだ。
「アーサー。ありがとうございます」
カイルはお礼を言った。番として守られたことに感謝をした。
「なぜ、お礼を言う」
アーサーには理解ができなかった。
番が害されて怒るのは当然のことだった。
「聞こえていました。俺の為に幼馴染を解雇したのでしょう?」
カイルは生まれつき耳が良い。
シャワー室で着替えをしている間のアーサーの大声は聞こえていた。
「昨日はすみませんでした。愛人にすればいいなどと思ってもいないことを言ってしまいました」
「いや、あれは私が悪かった」
「いいえ。俺が言いすぎました」
カイルは引かない。
アーサーに甘えるような仕草をする。無意識だった。
自分だけのアルファであると匂い付けをするかのように、体を密着させる。
「アーサー、大好きです」
カイルは愛の告白を口にする。
それに対し、アーサーは頬を赤く染めた。
「私も愛している」
アーサーはカイルを抱き上げた。
それなりに鍛えているのだが、軽々と横抱きをされてしまう。
……やばい。
興奮をしてきた。
腹の奥が疼くのを感じる。
アーサーのアルファのフェロモンを敏感に感じ取る。
……かっこいい。
きゅんきゅんする。
抵抗できないまま、カイルはベッドに運ばれていた。
「昨夜のお預けをいただいてもいいだろうか?」
アーサーの問いかけに対し、カイルは頬を真っ赤に染めた。
……朝から!?
心の中では葛藤がある。
しかし、オメガとしての本能がそれを受け入れてしまう。
「もちろんです、アーサー」
カイルは肯定した。
「お好きなようにしてください」
カイルは両手を広げてアーサーを抱きしめた。
「カイル」
アーサーはカイルにキスをした。
深い口付けだ。
互いの唾液を交換し合うように舌を絡ませあい、夢中でキスをする。
互いの唇が離れた。
カイルはキスに慣れていない。息が絶え絶えになってしまう。その姿を見て、アーサーはかわいいと思っていた。
「かわいい」
アーサーはカイルの服の上から胸を触る。
ゆっくりとした手つきで胸を撫ぜ回す。
「ふふっ」
カイルはくすぐったいのか、笑い声をあげた。
「くすぐったいですよ。アーサー」
「この前はこれだけで達していただろう?」
「あれは発情期だったからでしょう」
カイルは笑いながら言った。
オメガの発情期は月に一度、一週間程度くるとされている。しかし、かなり個人差があり、性転換の妙薬を使った場合は一日で終わることも珍しくはない。
「しばらく、発情期はきませんよ」
カイルは断言した。
しかし、腹の奥が疼く感覚が抜けていないことを自覚していた。
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